※姑明でRー18幽霊姦。ドーム戦後。
殺した男が毎晩夢枕に立つから、近頃うまく眠れない。
男は寝床に入ってくる。巨大な濃い輪郭の向こうに、寝静まった仲間たちが透けて見える。
「いつまで来るんだ…」
なぜ正体がわかるのかといえば、亡霊は喋るからだ。
ボソボソと囁く声は、知った男の声をしている。斬り合った相手の、欲情しきった声を、死んでから初めて耳にした。
黒い影が覆いかぶさってくると、動物園のようなにおいがする。糞尿と体臭が混ざりあった獣のにおい。そのにおいを嗅ぐと、あのドームでの夜を思い出したし、肉と骨を切る感触が義手の下によみがえった。その手で影の頭部をぎこちなく押しやる。
「早く、冥土に、いっちまえって…」
暗い夜の底で、亡霊に話しかけたくなかった。死霊、物の怪、そんなものを怖がるには、自分はとうに多くの命を奪いすぎている。夢だと思うにはあまりにも生々しすぎる。
仲間たちの寝息を横に、亡霊は濃い輪郭を溶けあわせるように体をすりつけてくる。背後からのしかかり、交尾の体勢をとる。周囲のコンクリート壁に呼吸音が静かに反響した。
嫌だ、と小声で繰り返す。
ほとんど本気の抵抗を、大きな手が上から押さえつけてつめたい息を吹きかける。
「明……明…」
耳もとで名前を呼ばれると、頭皮がぞわぞわした。低く重たい声が鼓膜をくすぐる。
目を固く閉じ、衣服の前もしっかりと押さえている。
それなのに、熱いかたまりを尻に感じた。衣服の下、下着の内側で、脈打つ生殖器の存在をはっきりと感じとれる。
「なあ、頼む…」
成仏してくれ。やめてくれ。俺がそっちに行ったら、少しくらいなら付き合ってやる。お前の好きなように。好きな時に。
うわごとのように口からあふれる言葉の数々は、結合部からにじみ出た体液の音と混ざった。
影が興奮に満ちた吐息をもらす。
勢いよく、尻に男の陰嚢がぶつかった。
「ッアァ……」
尻の奥に、男根を感じた。突き当たりを撫でるようにこねられ、粗末な毛布に突っ伏した。
早くも肉壺が甘く濡れている。
「ンーッ…」
今晩も駄目だった。着衣のまま、男性器を突き入れられてしまう。どうやったって防げない。幻か悪夢のように思えるのに、こんなにもくっきりと男の形がわかってしまうのは、一体どんな取り憑かれ方をされているのか。
のしかかる男が前後に動き出し、熱のかたまりがひだを襲いはじめると、かなわなかった。
「っん、ん、ンっ…」
興奮した息遣いが頭のすぐ後ろでする。後頭部にかかる熱い息で髪が湿った。
尻だけを掲げたみっともない格好で、ゆさゆさと揺すられ、だんだんと頭がそのことでいっぱいになってくる。繋がった場所から、徐々にいやらしい音が立つ。
「ああ、やだ…そんな…」
膨れ上がった陰茎が肉壁をかき分け、亀頭がしつこく奥に口づけをした。
口から嬌声がもれ、たまらず腰を振った。
ちゅぽ、ちゅぽ、と入り口で肉棒が抜けたり入ったりする。下腹がとける快感によだれを垂らし、男の名前を呼んだ。
男はまたボソボソとなにか喋っている。
「俺の種を……俺の…」
強く打ちつけられた腰に、悲鳴じみた声が出た。獣の動きで揺すられる尻に、陰嚢が音を立ててぶつかる。
そこから激しかった。肉棒がピストンされて、腰が突き上げられるたび、体液があふれてズボンの下を垂れ落ちる。
涙が出るほど気持ちがいい。
「い、やっ、あ、あふ、あっ」
甘くとろける肉が、背後の男をきつく締めつけて離さない。濁った液体を求め、男根を淫らにしごく。俺には、必要がないものであるのに。
生理的な涙でにじむ視界で、暗闇にうごめく輪郭を捉えた。
さらさらと、見えぬはずの羽が震える音がする。
「姑獲鳥っ……」
伸ばした手が濃い輪郭の一部となり、影に抱きかかえられると、陰茎がより深く体内に突き刺さった。
痛痒いそこを、肉の感触が荒々しくこすりあげてゆく。影にしがみつき、いつか腰を揺すりあげている。愛し合う夫婦の営みのように。
硬さと熱さを増した陰茎が、執拗に奥にぶつかった。
「駄目、ああ、そこっ…そこ…っ」
猥褻な形が、夜ごと肉の形を変えてゆく。獣に抱かれている。殺したはずの獣に。
激しく腰を動かされ、達する瞬間、肉壁がこれ以上ないほどきつく雄に吸いついた。
男が、亡霊が、獣が、うめく。
痙攣する陰茎の震えが腹まで伝わり、とろけた声が自身の口からあふれる。その口がぬめるなにかで塞がれる。
細長い舌と舌を絡めあわせながら、腰をゆっくりと持ち上げた。空っぽの肉壺が、ひくついて、蜜をにじませる。
くちばしと舌で交わされるいびつな口づけは、生温かく、心地よい。
「お前の…種は…ないんだよ…」
口づけの隙間から囁いた言葉は、舐めとられ、抱きすくめる影のなかにのまれた。精を注がれなかった最奥がうずき、それでも、目の前の死者がいとおしかった。
2020.4.13
いれてくれ。いれてくれ。いさせてくれ。