乳と揺り籠

※『みやびっ!』の竜姦雅明小話。性的描写にご注意ください。

 気づけば口を開けてのどを震わせている。どうにもならない力にのどの筋肉を強制的に動かされているような強さで、口のまわりもが小刻みに震える。その場にじっとしていられないほどの激しい感情の動きに突き動かされ、勢いよく前へと脚を突き出した。かたいなにかの上にころげた。重たいからだが、どてん、と横向きに倒れた。首をもたげる。目をせわしなく動かす。どこまでも続く暗闇に、一層のどが震えた。

「……、あー…ああ、みやび、みやび」

 声と音が耳に届く。目の前の暗がりで、起き上がる気配がする。ばさり、ごそごそ、ぺたぺた。音を認識しながら、じぶんののどはまだ震えている。

「みやび、大丈夫、ほら」

 あたたかい感触に、からだが浮いた。浮いたからだが、なにかにすっぽりと包まれる。

「なくな」

 眠たげな声が、頭の上にぽとんと落ちてくる。そこでようやくじぶんが開けた口から声を発し続けていたことを知る。のどにわずかな痛みを感じる。声を止めても、じぶんのからだは小さく震えている。

「ん…?」

 歯がカチカチと音を立てる。暗闇は、変わらずに周りにいる。どこかにいってしまわない。暗闇は黙ってここを見ている。じぶんを見張っている。尾が両脚のあいだに引っ込んでいる。
 こわい。こわい。やめてほしい……

「みやび、大丈夫、だいじょうぶ…」

 寒くて、暗くて、狭くて、なにもない。なにも。じぶんと、じぶんの声しか、しない。つめたい壁がいたい。いきぐるしい。のどを震わせる。だれにもきこえない。だれも答えない。ずっとじぶんだけ。じぶんだけ。
 こわい。こわいの、やめて。
 ますますきつく丸まった尾をくすぐられ、びくっとからだが動いた。

「大丈夫、みやび、おれいるから…」

 かたくなったからだを、あたたかいなにかが撫でる。うろこの上を、あたたかい感触がさわさわと通っていく。何度も、繰り返し。やわらかくて、ゆっくりしている。
 そうやって触られていると、からだとのどの震えが、ゆっくり、徐々におさまってくる。暗闇の目玉も、いつのまにか気にならなくなっている。そこに居るけど、大丈夫、ここには届かない。じぶんは安全なところにいる。
 つのとつののあいだも、背中も、鼻も、腹も、みんなあたたかい。

「一緒に寝なきゃ、やっぱり、だめかな…」

 じぶんのものではないにおいがする。鼻を押しつけて、胸いっぱいに嗅ぐ。いっぱいになったら、同じだけ鼻から出ていってしまう。吐き出してしまうのがもったいないぐらい。すきなにおい。いつまでも、嗅いでいたい。

「そこで寝るの…? みやび…」

 もっとさわってほしい。もっと撫でていてほしい。すごくきもちがいい。すごく、ねむたい……


(雅・八歳)

 赤ん坊が母親の乳に育てられるというのなら、私はおまえの乳に育てられたといっても過言ではないだろう。これを口にするとおまえは顔を真っ赤にして機嫌を損ねるが、間違った表現ではないと私は思う。もちろん、私の育ての親はひとであり、ドラゴンとしてこの世に生を受けた自身を産んだのはどこぞの顔も知らぬメスドラゴンであることは承知している。そもそもひとのオスであるおまえから自然な性交渉で子どもが産まれることは、まずない(残念ながら)。
 ただ、一般的な母親と赤ん坊の関係と異なる点は、私が十分に成長し生殖が可能となった今でも、母であるおまえの乳首を吸い続けていることだ。母乳は出ない。出たことはない。しかし、一度むしゃぶりつくと容易には離れられなくなる。それがおまえの乳だった。私が何年も吸い続け、大きく、かたく、色を変えさせてしまった。
 吸っているとよだれが大量に湧いてくる。

「み、雅…っ、もう、っも、バイト、時間…!」

 歯が当たらぬよう、左の胸をきつく吸い上げた。甘く濡れた声が同じ口からあふれ、繋がった場所がきゅうっと私の興奮しきった雄を締めつける。熱い肉がまとわりつく感触に、ここ数ヶ月でさらに鋭さを増した歯がたまらず小刻みに鳴った。

「ひぁ、あっ、ぁ」

 受け入れた雄の脈打つ熱を感じるのだろう、そのまま幾度も断続的に私の陰茎を締めつけてしまうおまえは、欲求から腰が揺れるのを止めることができない。土の上でむき出しになった下半身が、まるでひとの雌のように上下に揺さぶられる。赤面し、眼球に涙の膜を張りつつも、挿入された巨大な陰茎で奥を叩いてほしがる。その動きは、あまりにも淫らに雄を誘った。たとえ無意識だろうと。
 裏山の湿った土のにおいに混じり、おまえのにおいがあたりに充満している。浅い場所まで抜きかけた陰茎で、ゆっくりと円を描くように肉をこする。

「やだ、それっ…!」

 にゅる、となかの粘膜と陰茎がこすれる。おまえは口を覆った。なかはぬるぬるしている。抜けば、そこから体液があふれてきそうだ。おまえから視線を外さず、ねっとりと竿で肉を味わいつつ、挿入を深くしていく。
 日暮れの時間だった。木々の間からは暗くなりつつある空が見えており、残った太陽の光を奪い尽くそうと、夜の気配がじりじりと近づいている。
 校舎の方を気にして抑えようとしているおまえの声が、最奥をかすめた瞬間、手のすき間からあふれ出た。とろけて、水あめみたく甘い。悦びに浅ましくうねる内側が、雄の種づけを期待するかのように、陰茎全体に吸いついた。
 自身の性器が一段と硬さを増したのがわかった。
 何も言わずに、一気に挿入を深くした。おまえの声が上がる。逃げようとする体を前脚で押さえつけ、奥までいっぱいにもぐりこんだ。おまえの尻と私の股間が何度もぶつかった。膨れた先端で甘く濡れた肉を、幾度も突いた。

「ぁっ、あッ、あッ…ぁっ、あっ…」

 私が腰を振りたくるごとに、おまえの口からよだれがこぼれた。全身から性のにおいをさせながら、快楽に溺れ、ドラゴンの陰茎を抜き挿しされる姿に、ますます熱をこめて肉を突きあげる。
 昨年で3メートルを越した私の体長には、交尾の相手としておまえはあまりにも小柄だった。可能か不可能かでいえば、明らかに度を越した無茶をさせていることはわかっていた。それでも、幼い私がのしかかって犯した肉体は、私の成長に合わせて馴染んでいった。本気で拒むことも、捨てることもできただろうに、それをしなかった。
 開いた口の中で、舌と口蓋のあいだで唾液が糸を引くのが見えた。考える隙もなく、その口に舌を差し入れている。

「ンッ…ん、んっ…っぅ…」

 舌で口内をかき回し、唾液を吸う。夢中で唇を貪る。その最中も、性器を突き入れて、奥を貫くことはやめない。おまえは突かれているあいだに一度達したようだった。私の名を呼びながら、雄を突き入れられ、快感にとけた表情で全身を震わせている、その様子を凝視する。追い詰めるように濡れそぼった奥を突きあげる。おまえが悶える。腰が卑猥にくねる。

「ンンーッ…!」

 薄い舌を追いかけて、絡めとった。小さな口から飲みきれずにあふれた唾液が、おまえのあごや口のまわりをべたべたにする。上あごを舌で幾度もこすられると、おまえは股間を私の腹にすりつける。自分がどんなふうに雄を求めているのか、おまえは気づいていない。
 赤ん坊の頃、おまえの口の中まで、私の舌は届かなかった。おまえの口づけは私の鼻にされるものだった。おまえのあたたかい腕の中で、私は一日ずつ種としての成長を待った。私の性器を早くおまえの中に突きいれ、種をつけ、孕ませることを考えた。そういった未来を夢みながら、それとほぼ同じだけ、おまえのやわらかくはない膝の上を愛していた。両腕に包まれる安心感を、心の底から好いていた。
 おまえの寝起きの声。眠たげな視線。あたたかな腕。おまえのにおい。
 冷たく狭い暗闇の夢は、今はもう、ほとんどみない。

「……はぁっ、ぁっ、はっ、はあっ」
「こんな体で、働くことは、難しいだろう。どうだ、連絡を入れては」
「お…っ、おまえの…! おまえが…ぁっ、もぉ、なか…っ…」

 バカ、とおまえは言った。バカドラゴン、と泣き声が続けた。受け入れた雄をくわえたところが、せつなげに収縮した。吸われ続けた乳首が、いやらしく尖って、痺れているのだろう、目の前に突き出されていた。厳しくすることができない、甘やかしてばかりの、駄目な親だった。私の母だった。尾の先まで震えるほど、興奮した。

「あっ、ぁ、あっ、おく、おく…だめだよ…みやび…っ」

 わかっているよ。
 膨れ上がった性器を、どの人間にも届かない奥深くまで、強引に突きいれた。

「〜〜ッ!」

 唇がわななき、目はきつく閉じられ、おまえの体が痙攣する。存在しない子宮のことを考えながら、私はおまえにさらに体重をのせる。翼で囲い、四肢で拘束し、母のからだを深くまで欲望で埋める。
 そこがおまえの中心だった。
 目がけて、勢いよく精を吐き出した。

「あぁぁっ…」

 大量の種が内側に流れこむ。
 快感にとろけきった声に、暮れの梢が震えるようだった。精液を体内に注がれ、全身を色づかせて、おまえは子の性器を締めつける。私はため息をこぼしつつ、緩やかに、深く、何度も肉を突いた。おまえは貫かれているあいだも泣いている。おまえのなかは、たまらなくきもちがいい。


(明・十二歳)

 うんしょ、と持ち上げた小さな体は、いつものようにしっかりと俺にしがみついてくる。片手にランドセルをつかみ、もう片手では雅を抱えて、二階への階段をのぼった。雅は俺の首もとに鼻を押しつけ、しつこくにおいを嗅いでいる。つめたい鼻の感触がくすぐったかった。俺は自分の部屋に入ってランドセルを床に落とす。雅も下ろそうとした。離れない。

「みやび」

 空いた手を伸ばすと、雅の口が俺の指先をくわえる。ぬるい舌がぺろぺろと懸命に俺の指を舐める。下ろさないでほしいという訴えに眉が八の字になるのがわかった。今日こそはケンちゃんたちと遊ぶ約束を守りたいのだ。けれども。帰ってきたはずの俺がいなくなるとトカゲが玄関先で鳴き続けると、両親からクレームが入ったのが、少し前。兄が抱きかかえようとしたら足に噛みついてきたらしい。兄貴にはめちゃくちゃ謝った。雅はなぜか最初から兄と相性が悪い。(「このトカゲ、お前の部屋じゃなく外で寝させたらどうだ」兄はたびたび意地悪をいう)夜泣きがなくなったと思ったら、今度はなんだろう、これがうわさのイヤイヤ期ってやつか。
 雅はまだ俺の指を必死な様子で舐めている。どうしてそんなにしがみついてくるんだろう。まるで次に手が離れた時には、離ればなれになるみたいに、雅の前脚はいつも全力で俺にしがみついてくる。
 雅の目をのぞき込んだ。

「どうしたんだよ。なにか、怖いのか?」

 言葉が通じるはずもないとわかっていて、つい話しかけてしまう。雅の金色の瞳は、声をかけた俺をじっと見つめてくる。だから俺も見つめ返す。
 一生懸命な目だ。何に一生懸命なのかは、さっぱりわからないけれど。その視線に、胸がふさがれたような、なんとも言えない気持ちになって、雅の鼻に唇をつけた。グィッ、グィッ、と鳴く雅。その頭に頬ずりした。灰色のうろこはひんやりしている。
 雅がこの家にきて、もうすぐ一年になる。

「おかあさん、遊びに行きたいんだけどなぁ…」

 熱心にティーシャツを引っ掻く雅に、シャツの裾をたくし上げて乳首を吸わせてやりながら、ぽつりとつぶやいた。小さな歯がたまに乳首を甘噛みする。その痛がゆさに、きゅっと眉間にしわが寄る。俺は一年前に比べて重さを増した体を抱き直した。雅のまぶたは閉じかけている。
 捨てられていたみやび。俺を呼んだみやび。もう、おまえには、家があるんだぞ。

「ねんねん…」

 なんにも、怖いことはないよ。
 うろこを撫でていたら、腕の中からささやかな寝息が聞こえてくる。

2018.7.10

(わたしもほんとうはほしかった。)(わたしも、ずっとほしかった。)