赤と黒

 あっという間に刀を取り上げられて、一瞬、お前は何が起こっているのかわからない顔をした。そうすると、精悍な顔立ちがほうけたようになり、年齢相当の表情が出てくる。二十歳そこそこの、成人男子としての表情だ。手に持った刀を指で挟み、人差し指と親指でぱきりとへし折った。「明」折れた刀身は地面に刺さり、お前はそこで、ようやく危険に気がつく。聡いようで、大事な場面にうまく頭の回らないところもあった。そこに気をつけろと、お前の兄も口をすっぱくして言っていたはずだろうに。お前は、両手をきつくにぎりしめると、構えをとって、私に立ち向かう姿勢を見せる。お前は素手で私と向かい合う。戦うつもりでいる。けれどよく見れば、その両の拳は震えている。息つぎが荒くなり、目の粘膜は潤んで、眉は怯えに下がる。私は笑わずにはいられない。頬まで裂けた口に、真っ青になって、お前は泣きだしそうな顔をする。まったくの丸腰で、私を倒せるという希望を持ち合わせているほど、お前もまだ命知らずではない。

 半日ほど縛り付けておいたら、とうとう眠りについた。日が高いうちは助けを求める声を上げていたが、逃亡のための体力を失うだけと気付いたのだろう。お前はいま、疲れた表情を浮かべながらも、おとなしく寝息を立てている。私は数人の見張りを追い払った。石造りの牢屋は薄暗く、生臭い鉄のにおいが漂っている。不貞をはたらこうという魂胆だ。
 裸に剥くことは許さなかった。私は、お前が私の右腕になるなどと信じてはいない。しかしお前が、いずれ私の下につくという、その予感は疑ってはいなかった。矛盾であるかもしれない。だがそれがどんな形であれ、そう遠くないうち、それはきっと訪れるだろうと、私は感じている。そしてその時、お前はこの愚かな吸血鬼たちを統べる男になるのだ。誰もが平伏し、縋りつく男になる。誰もがお前を恐れ、心酔するだろう。どれだけ拒もうと、甘ったれた根性だろうと、お前のその才からは逃れられない。縛り付けた柱に近づき、間近からその寝顔を眺めた。瞼はぴったりと閉じられており、お前はもしかしたら、夢も見ていないのかもしれない。柱に縛り付けた縄に爪で切れ目をいれていく。お前の胴体や、足に頑丈に巻かれた縄は、お前を逃がすまいとしてやったというよりも、吸血鬼たちのお前への恐れだった。よだれを垂らしながらも、遠巻きにするしかない奴らは、宮本明という男の恐ろしさを、嫌というほど知り尽くしている。見張りたちが逃げるように出ていったのも、この若い獣の恐怖を体で覚えていたからだろう。
 両足を縛る縄を切り落とし、胴体を締め付けている方に取り掛かる。少し屈むと、ちょうどお前の目線だ。兄によく似た黒髪からは、乾いた汗のかおりがして、塩くさい。寝顔はまったく幼いとしか言いようがなく、おそらくこの表情のみを見れば、捕獲時の暴れようは想像しにくいかとも思える。順調に縄を切り落としながら、私はお前を観察することをやめなかった。見ていてちっとも飽きがこないのだから、おもしろい。
 すべての縄を切り落とすと、解放された形となり、重力にしたがって、お前は私に倒れ込んでくる。意識のないお前は、けんけん喚かない。いたっておとなしいものだ。私はしばし考えた。石造りの牢は薄ら寒く、そしてとても不潔である。手をとって、お前を肩の上に担ぐと、牢屋を出た。
 吸血鬼たちは屋敷にひしめいていたが、歩けば、皆道を開けた。逃げ出すとまではいかなくも、怯えて、距離をとる者がほとんどだ。お前が目を覚ますやいなや、たたっ斬られると思っているのだ。お前の手足は自由で、その眠りだけが、情けない吸血鬼たちの命を繋ぎとめている。異様な静けさのなかを、床を軋ませて進み、自室に着いた時には、二つ部屋向こうまでまったくの無人であった。

 日ごと血を浴びる衣服には、生臭い生き物のにおいが染み付いており、お前の体臭を完全に掻き消している。しばらく眺めていたが、ためしにシャツに指をかけてみた。そのまま、真っ二つに引き破る。おおげさな音が室内に響き、首元から臍にかけての肌色があらわになった。畳にシャツの切れ端を放る。お前はまだ目を覚まさない。しかし腹筋から、鎖骨までをゆるゆると撫でてみると、違和感を感じるのか、わずかに眉をひそめた。鍛えられた脇腹を指で押してみる。弾力を持って、私の指をやわらかく弾くそのさまは、とても健康的で、みずみずしい。切り裂けば、赤い血が噴き出すだろう。たっぷりと栄養を含んだ若い肉体は、利用価値があり、吸血鬼からすれば最高のご馳走だ。横たわったお前と、私では、さながら晩餐の光景にも見えたことだろう。

「……」

 お前の胸が一際大きく上下した。ささやかだった呼吸が、深くなり、睫毛がふるりと震える。私は手を止めて、じっとお前を見た。眠りから引き戻されていく様子が、手にとるようにわかり、息をひそめる。剥きだしの腹に置いていた手を、お前の手首にそえた。

「…」

 荒れた唇から、短く息を吐き出して、薄い瞼の間から、お前の黒い瞳がのぞく。

 殴りかかろうとした手はぴくりとも動かなかった。どれだけ勢いをつけても、数センチさえ動かせない。見ると、両手首とも畳に押さえ付けられている。我を忘れて絶叫した。殺される--

「静かにしろ」

 生温いもので口を塞がれ、驚きに唾を飲み込んだ。荒い息を急に止められたことで、動転した肺が苦しみに悶え、ひっくり返る。舌を絡めとられ、歯裏の隙間が撫でられる。息ができない。興奮した胸が裂けそうに痛み、目の前にある胸板を強く叩いた。唇が自由になる。けれど呼吸はままならない。懸命に酸素を取り入れようと息を吸い込むが、肺がそれを受けつけず、内蔵がよじれる。畳に頭をこすりつけ、悶えた。恐怖に焦れば焦るほど、興奮が高まり、取り込む空気が少なくなる。視界が白くなった。
 「手のかかるやつだ」滑るように顎をとられ、再び唇を塞がれた。恐怖にこぼれ落ちた涙と、入ってきた新鮮な酸素が混じり合い、肺に浸透する。酸素が肺を満たす。離れた唇を待たずに、追って、噛み付いた。息苦しさをなんとか和らげようと、かすかな空気を貪る。舌を吸ったところで、強引な手の平に首根っこを掴まれ、引きはがされた。しかし、すぐにまた唇が合わさり、二度目の酸素が流れ込んでくる。死への恐怖が遠ざかり、安心に、ともすれば崩れ落ちそうになりながら、唇を吸い、唾液を飲まれた。安定した体にしがみついたまま、しばらくそうした呼吸を繰り返した。

「……」
(……)

 いつ移されたのだろう。霞んだ目ではあまりよく見えないが、暗闇の濃い室内は、どうやら二人きりのようだった。襖の向こうからぼんやりと落ちてくる夜の明かり以外に、光源はない。荒れた呼吸が、ゆったりと落ち着くに任せて、手の力を抜く。だらしなく上半身が崩れ、畳に完全に横になる形となった。

「…雅か?」
「そうだ」
「俺は…何をされるんだ」

 軽やかな笑い声が降ってきて、掃くように首元を撫でられる。

 手際よく丸裸にされた。その後、たっぷりと時間をかけて、全身をくまなく舐めまわされる。皮という皮、唾液が染み付かない場所はない。隅々までに舌を這わす雅の水音と、自分の荒い息つぎだけが、部屋のなかに響いて、いやらしい空気になっている。ひそやかな空気がこもってくる。吐き出す息は熱かったが、それは時々雅に飲み込まれた。飲まれる代わりに、唾液を流し込まれた。口から溢れた分も、目ざとく舐めとられ、すべて唇と唇を通し、喉を伝って胃に落とされる。舌が麻痺し、喉は焼けるように熱を増した。
 脇腹を舐める舌が、薄い肉越しに肋骨のすき間を捉えた。そこばかり執拗に舐めはじめる舌に、息を吐いて、うずくまる。閉じかけた目で見た性器は、唾液にまみれて、とっくにそそり立っていた。ぬらぬらと暗がりに光るそれを、凝視していたら、強い力で仰向けにさせられた。赤い口が犬のように横に裂け、牙を剥く。覗く舌に肉が震えた。おそろしいことに、これが雅の笑みなのだ。

「楽しいぞ、明」
「そうか…」
「いっそ、お前を食ってしまいたいよ」

 手の平が内股に触れて、強引に両足を拡げた。暴かれた陰部を隠す前に、そこへ雅の鼻先が埋まる。強い快感にのけ反った。性器にむしゃぶりつかれて、他人の舌の感触が脳まで鮮明に伝わる。逃げようとあがくも、力の入らない弱い体では、畳を引っ掻くことしかできない。わざと音を立てて吸うせいで、耳からも犯されている気になった。

「や、やめてくれ…」

 右手で白い髪を掴み、なんとか押しやろうとするが、逆に押さえ込まれてしまう。尿道を強く圧されて、瞼の裏に火花が散り、畳によだれを垂らした。たまらない快感が頭を占めて、体の芯を揺さぶり、下手をすればおかしな声がもれそうになる。緩く開いた視界が涙の膜でにじんだ。自分の体のはずが、完全にコントロールを失っている。
 悲鳴がもれた。袋の部分をやわらかく噛まれて、手の平で揉み上げられる。尖った牙が肉を突くその感触に、ぎりぎりの快楽が神経をなぶった。半ば、泣き声混じりにしゃくり上げる。雅が薄く笑った。

「どうだ」
「いやだ、もう…いや…」
「そればかりだな、お前は」
「ああっ」

 強い力で扱く手は激しさを増し、なにもかもをどろどろにしてしまう。抗いがたい衝動が身を突き上げ、膨らんだペニスをいやらしく震わせた後、熱い口内に精を放った。

 自慰などしてないにちがいない。溢れた精液は量も多いが、とても濃かった。目を閉じて、それを舌の上で調べ、味を堪能した後、残さず飲み干した私を、お前は信じられないものを見るような目で見る。涙と羞恥に目尻を赤くした顔は極上だ。
 私は衣服をすべて脱ぎ捨てた。お前は、これから何が起こるのかを感じ、怯えている。目が恐れに澄む。ようやっと気付いたのだ。震える腕で上半身を起こそうと、背中を見せたお前に、後ろからのしかかった。お前は弱い力で猛然と暴れだす。けれども射精後のけだるさが、筋肉を弛緩させているせいで、お前の抵抗は逆に挑発となってしまう。

「雅、頼む、雅…」

 濡れた性器を握りこんだら、びくりと体を震わせ、低いうめき声をもらした。そのまま何度か上下に滑らせれば、また強度を取り戻しはじめる。お前の啜り泣く声が部屋を満たした。腕を回し、四つん這いに起こさせるも、力が入らないのだろう、すぐに上半身が崩れ落ちてしまう。おかげで、尻だけを高く持ち上げる格好となった。

「いい格好だ」

 つぶやくと、お前は両手で頭を覆った。汗で湿った黒髪の間から、赤く染まった耳が覗いている。屈み込んで、腰に舌を這わせた。牙を突き立ててしまいたい衝動を抑える。塩辛い肌を舐め、骨のくぼみに唇を押し当て、蛞蝓のような唾液の跡を残していく。お前の断続的な泣き声が耳に心地よい。
 そこだけ色の違う肛門は、興奮に赤く染まり、やはり恐怖にきつく閉じられていた。私は手の平のぬめりを確認する。お前の精液で、指先はてらてらと油を塗ったようだ。

「な、何だっ」
「おとなしくしていろ」
「やめろ、なに、何してる?」

 「雅?」口のなかに溢れさせた唾液を確かめ、引き締まった尻たぶを拡げると、とろりとそれを垂らす。精液よりもやや水っぽいそれは、肛門のひだを濡らし、割れ目を伝って、畳に落ちる。少しが竿あたりまで流れたようで、お前は小さく身震いする。先で押してみると、弱い嬌声が上がった。肌自体はやわらかいのだ。先程、存分に舐めほぐしたせいであろう。入り口はこうだが、内側は、おそらく熱く煮えたぎっているにちがいない。

「明」
「……」

 片手を腹の下に差し込めば、弱った体はやすやすとひっくり返る。お前はすぐに顔を隠したが、私は見ることができた。真っ赤に染まった頬と、泣きじゃくるお前のなかにたしかに根付いた、快楽への欲求。与えられる未知への期待。鍛えられ、割れた腹筋が動くさまを、じっと見下ろす。勃ち上がったまま、辛そうに先走りをもらすお前の性器は、強く解放を求め、まったく、いやらしいったらない。喉の奥で笑った。目が覚めてから初めて、お前は私をその目で睨みつけた。
 指の腹で、幾度かぬめりを塗り込めたら、指先に力をこめる。浅いが、じわじわと先が埋まった。そのまま間をおかず、付け根まで挿入すると、お前の息が明らかに震えた。呼吸が乱れる。いま、お前は強い異物感に襲われているはずだ。初めて他人を受け入れたのだろうそこは、一本の指さえも強く締め付ける。唇からもれる悲鳴を無視し、そのまま肉を掻き分ける。追い出そうと拒絶する筋肉と、誘い込もうとする肉の矛盾がお前を苦しめた。
 お前は紛れも無い処女だった。そして童貞でもある。声をかければ、おそらくそこでくじけてしまうだろうと読み、私はすべてを無言のままに行った。お前の体力も限界である。

「つらいか」

 どうしてそんなことを聞くんだろう。もう瞼も腫れて涙もでない。さんざんなぶりまわされた。こんなことをされたのは、はじめてだ。生まれてきて、一度も考えたことはない。こんなことは、考えたことがない。
 のけ反った。雅は答えを待たずに、腰を押し進めている。歯を食いしばって、堪えた。熱い泥のように溶かされた肉が波打ち、ずぶずぶともぐるその肉の棒を、奥へ奥へと導く。赤黒く脈打つ凶悪な性器は、凶器以外の何物にも見えない。股ぐらに埋もれていくさまを直視出来ず、目をそらしたら、顎をとられ、強引な視線が絡みついた。血より赤い目に、正面からまともに覗きこまれる。その目にある獣のような欲情は、決して人間に宿るものではない。唇を啄むように吸われると、体のなかでなにかが疼いた。

「明、息を吐け」

 呼吸がとぎれとぎれになる。根本まで埋まった圧迫感が、ともすれば、意識を薄めようとする。上がらない腕を伸ばし、肩にすがりついた。汗がぬめり、熱が互いの体に染み込む。得体の知れない恐怖感が、じわじわと指先から胸までを浸し、また肺の酸素を奪おうとする。しかし頼る先は一つしかない。

「雅、雅…」

 背中に手が回されて、胸と胸が強く密着する。熱い皮膚越しに、かすかに心臓の響きが伝って聞こえた。やわく息を吐き出す。互いの鼓動が混じり合い、竦み上がった気をなだめ、落ち着かせてゆく。首元に鼻先を埋められると、血のにおいに混じって、雅のにおいがした。濡れた舌が首筋を舐め上げる。
 内壁を擦られて、泣き声がもれた。引いては、勢いよくたたき付けられる。本格的な律動が開始された。畳が振動に擦れる音や、肉が打ち合う乾いた音、そのあまりの生々しさに息がつまる。とろけた肉が性器を包み、そういうつもりはないのに、ひとりでに奥へと誘おうとする。赤面した。恥ずかしかった。これではまるで、離したくないと訴えているようである。

「見えるか?」

 抱え込まれていた体を急に離されて、目を閉じる間もなく、見えてしまった。結合部分から滴る、精と体液の混じり合ったぬめりを纏い、挿し込まれている凶悪なペニス。それをくわえ込む自分のそこが、とろとろに緩み、巻き付いて、嬉しそうに収縮するさまを--
 きつく睨みつけた。しかし雅は淫猥な笑みを浮かべて、俺の腰を強く引き寄せる。ひどくみだらな声を出してしまう。この男、殺してやりたい。

「お前のそういう声が聞きたかった」
「だまれっ…」

 たわむれるように揺らされた腰に目をきつく閉じた。「かわいいやつだ」動かされる度、結合部分が粘着質な音を立てる。耳を塞ごうとしたら、両手をまとめて押さえ付けられた。身動きが許されないまま、さらなる刺激を与えられ、充血した眼球に再び薄い膜が張る。

「あっ、あっ、あ」

 濡れそぼった亀頭を握りこんだ雅の手の平が、巧みに動き、強烈な快感を生み出す。尿道に入り込んだ爪先に、情けない悲鳴を上げた。体を揺さぶる、痛みと快感。なにもかもを見透かされているような錯覚に陥った。どこへ連れていかれるのかわからない不安と、未知の領域への期待が体を苛み、頭を裏切る。狂ったように叫んだ。

「助けて、助けてくれ」

 「雅っ」なかの筋肉が引きずり出されてゆく快感と、絶えず性器をしごかれる原始的な快感に、確実に身を蝕まれてゆく。こわい、こわい。救いを求めるような男ではないのに、この男しかいなかった。汗で張り付いた髪を分けられると、涙の満ちた眼球を直に舐められ、鳥肌が立つ。大きな手の平が心臓に当てられ、肉食獣のような口が裂けた。涙が溢れた。

「私のものだよ」

 「お前は、私のものだよ、明」拒否を許さない力強さで唇を割られる。そのまま舌を犯され、溢れた唾液を吸われ、唇に流れた涙も舐めとられる。解放された両手でしがみついた。角度を変えて幾度も口付ける雅の唇を、噛み、夢中で貪る。自分がいま、なにをしているのか、なにをされているのか、痺れた頭でわからないまま、本能にしたがって、ひたすらに相手を求める。流し込まれた唾液を飲み、とろけた思考で、奥へと放たれた精に震えた。白濁を落とすまいとする肉のうねりを、間をおかず蹂躙する欲の塊に、歓喜の泣き声を上げる。答えは口が裂けても言えない。

 夜明け前には身を消していた。やはり、と言うまでもない。たいしたものだ。あれだけいたぶってやった腰を抱えてここから逃げ出すのは、さぞつらかっただろうに。全く並外れた根性の持ち主である。
 惨殺された吸血鬼たちの死体は点々と転がって、お前の逃げた道筋を表している。片付ける同族の怯えた顔には、恐怖がこびりついていたが、卑屈な怒りもにじんでいないこともない。刀を奪って逃げたらしく、死体は皆首を落とされていた。余程必死だったのか、衣服は部屋の隅に放られたまま、昨夜のお前の気配を宿している。想像して、残念に思った。全裸で刀を振るうお前の姿は、鬼か、修羅に見えたことだろう。

(逃げるがいい)

 私の庭に吸血鬼たちは近寄らない。縁側であぐらをかき、笑う私を、誰も見咎めない。お前は味方のところまでたどり着いたのだろうか。日本刀を片手に、また私に向かってくるのだろうか。殺してやると、また息巻いて、ひどい涙を流すのだろうか。山百合の白さが目に眩しい。しかしあれは、自然の白なのだ。汚れた土から生え、周りの雑草と同じ栄養を糧にして、高く育つのだ。

(どこへでも、逃げるがいいよ)

 あとは待つだけ。