新春

※斧明、雅明、絆創膏ネタ、性描写にご注意ください。

 正月休みと名目をつけて、普段はできないいやらしいことをしてしまおうという魂胆である。

「この、この、変態、変態! 変態!」
「ひどい言われようだ」
「いつものことです」

 男二人は暴れるからだの上で笑みを交わした。斧神の手が羽織をはぎ取った。さけび声も耳に心地よい。
 雅は鷹揚な態度で組み伏せられた明の黒目を見下ろした。相変わらず、いつ見ても興味をそそられる目だ。この目があるから、いつも命を奪いきれない。奪いきらせない。
 明は唇をわなわなと震わせた。真っ赤な顔で、男どもを罵った。効果はなくとも口を動かさなければ。
 焦るのには理由がある。見られてはいけないものがある。

「あまり暴れると怪我をするぞ」
「その頭をとれ。餅のかわりに、お前の顔を焼いてやる」
「新年から物騒なことを言う。外に聞こえでもしたら、怪しまれるだろう」
「塞いでしまいますか」
「いい考えだ」
「くたばれ! くたばれクソ野郎ども!」

 山羊の兜が畳の上を転がった。罵声は巨大な裂け目に吸い込まれ、大きすぎる舌が明の口いっぱいを埋め尽くした。
 鼻まで覆われた明は呼吸ができず、他人の唾液の味とにおいに生理的な涙を浮かべた。生臭く、酸い唾が口の中に溜まる。かかる息は熱かった。粘膜はぬるかった。
 キスと呼ぶには雰囲気も気づかいも足りなかった。押さえつけられた体から力が抜ける。斧神が男を貪るのを、雅は微笑みを浮かべて眺める。
 雅は知っている。斧神は明との『それ』を好んでいる。

「っ……クソが…」

 慣れた相手との行為に、互いの体温はどんどん上昇していく。顔じゅうを唾液で濡らし、舌を痺れさせながら、明は目の前の男の胸に手をついた。頬が、というより顔全体が、ものすごく熱い。勘違いを起こした体が準備をし始めている。そんなことはできない。こんな、明るいうちから。

「み、みやび、はら、腹減ってないか」
「今はいい」
「いま、止めて、くれたら、許してやっても…ッ」
「めでたい頭だな」

 明の口から嬌声があふれた。親友の興奮が正面から押し当てられ、的確に着物の下のたかぶりをこすったからだ。そのまま硬いものを押しつけてくる動きに、口づけどころじゃなくなる。それでも口を解放してもらえない。
 斧神は容赦しない。
 ごつごつと骨ばった手が着物の隙間から差し入れられ、衣の下のわき腹を遠慮のない手つきで撫でた。明の背筋が小刻みに震えた。奪われた呼吸で酸欠になりかけている。期待でまぶたがひきつる。快感で思考が崩れる。唾液は、こんなに、甘かっただろうか。
 二人の男にはまだ見えない。明の下着は、先走りでとうに色を変えている。

 斧神の眼が眠たげに細められた。鋭く尖っていた。きつく欲情している時の目だった。

「…なぜそんなに嫌がる?」

 力ない手で畳を引っ掻き、乱れた着物を手繰り寄せようとした明の努力を、男は粉々にする。岩のような手が伸びてきて、明が押さえていた着物の前を一気にはだけさせた。
 明が半分泣き声になったうめき声を上げた。

「見んな…!」

 耳まで赤くした友の胸から、男は目が離せなくなる。
 明が両手で顔を覆った。

「だから…ッ、嫌だったんだよ…!」

 挙動不審な二人に、雅はあらわになった明の胸を上から覗き込んだ。納得した。いや、納得はしないが、めずらしいものを見た気になった。

 左と右に一枚ずつ貼られた絆創膏は、刺激に敏感になった部分を守るために機能してくれているようだった。

「ははあ、なるほど」
「…」
「これは、斧神、お前のせいか?」

 どん、と明の足が斧神の腹を蹴った。それが返事だった。

2018.1.4

お題『乳絆創膏』

新春文字書き初めが絆創膏すけべという罪深さをお許しください。