※Rー18。腐向け。授乳描写、性的描写にご注意ください。
抵抗組織のエースがどうやら母になったらしい。風の便りに聞いた男は右腕に命じ、目当ての男を人間どもの隠れ家から捕まえてこさせた。川で水浴びをしていたところを襲われたため、明は全裸のまま、雅邸へと運び込まれた。上司の帰りを待っていた編笠連中は連れてこられた男をひと目見るや、蜘蛛の子を散らすように屋敷の隅々へと逃げていき、広い館は静寂に包まれた。斧神は主人の待つ部屋に向かった。もう夜になっていた。
「おまえら…おまえらは…」
「母になったと聞いたから、てっきり子でも身ごもったのかと思ったよ」
「そのように」
「てめえら頭おかしいんじゃねえのか!!」
明の怒鳴り声が屋敷じゅうに響き渡る。とてつもなく怒っている。怒りでその手が少し震えている。しかし斧神に後ろから羽交い締めにされているので、いまいち迫力に欠ける。
手を伸ばし、雅が燭台をさらに近くへと引き寄せた。蝋燭に灯された橙色の明かりが目の前の男の肌をやわらかく照らす。夜目がきかないのだ。じっくり見せてほしい。
「…」
「…?」
「…」
明の全身を眺めていた男が身を乗り出した。反射で後退しようとした明の背が親友の胸に押しつけられた。赤い瞳が一点を見つめて動かなくなる。
視線の強さに、明がぎゅっと唇をひき結んだ。戦いは始まっているのだ、目をそらしてはいけないとわかっていながら、明の頭の中は別のことでいっぱいだった。なぜ、よりによってこいつらの耳に入ったのか。どこから漏れた。あとなんども言うが、明は全裸である。
白い指先が明の胸、乳首のすぐ下あたりをくすぐった。明の口から声が出かけた。触った場所は濡れていた。指先から垂れるしずくを、雅は灯りにかざしてみた。
「?」
裸の胸が大きく膨らんだ。呼吸が浅く、緊張と羞恥と腹立ちで明は息がしにくかった。斧神の巨大な手が明の胸の上、鎖骨のリンパ節のあたりに添えられた。ゆっくりと撫でる手つきは年下の男というよりも子どもをあやすものに近かった。
雅が濡れた指をくわえた。
明が片手で自分の顔を隠そうとした。斧神がそれをさせなかった。
だだっ広い奥の間で、光源が少ないせいで隅の方はよく見えなかった。天井の方まで夜の気配が充満していた。一日の終わりが近く、生き物たちが寝静まりゆく穏やかな感じがした。春がすぐそこまで来ている、そんな匂いがあたりに漂っている。
これは、口にしたことがあるものだ。雅は、舐めとったものをしばらく口の中で味わっていた。言葉にできない味をしていた。しかし、たしかに知っている味だった。思い出せない。
舌の先で前歯の裏をなぞった。
無言で考えにふける主人を、右腕は黙って待っている。
「……奇怪なことだ」
雅が言った。斧神が山羊の鼻を上げた。
「…」
明は何も言わない。歯を食いしばって、赤面している。背後から自由を奪われ、目の前の男たちの命を奪うために鍛えたはずの体を、頼りない灯りの下にさらしている。うなじまで熱を持ち、脚のあいだがすうすうして、たまが縮こまっていた。両乳首とその周りが濡れていた。
不意に雅がかがみ込んだ。明の両脇に手をついた。素早かった。止められるよりも早く、右の乳首をくわえて吸った。
「!」
明の両手が雅の頭を強くつかんだ。構わなかった。口にしたものをきつく吸い上げると、声が部屋に響いた。雅が体重をかけて明の腰に乗り上げた。
最初の一口で答えはわかった。
「…あっ…あっ……」
一週間ほど前のことだ。胸が妙に張って、乳首がじんと痺れるように痛む日があった。わずかに熱も持っているような気がした。胸全体がなんだか妙な感じで、特に乳首がおかしい。シャツにこすれると、なんというか、痛がゆい。痛がゆいとしか表現のしようがない。そんな奇妙な感覚を一日じゅう抱えたまま、どうせ明日になったら治るだろうと、いつもどおりに仲間たちと同じ部屋で就寝した。六時間後、シャツの前がびちょびちょに濡れている、その気持ち悪さで目を覚ました。濡れた掛け布団を片手に言葉を失っていたら、ユキが起きてきて、眠たげな声でつぶやいた。
「なんか、赤ちゃんのにおい、する」
寝ぼけ半分に赤ん坊の姿を探すユキを横に、明は自分の胸を弱い力で揉んでみた。ほんのわずかに膨らんだような胸を押した途端、自分の乳首の先端から乳白色の液体がぴゅうっと飛び出し、明はその場にくずおれた。
これが一週間前の話。
「クソ野郎ッ…も、離れろ、よ…っ」
こちらは現在。
明の手が懸命に胸から男の頭を引き剥がそうとして、相手の白髪がぐしゃぐしゃに乱れていた。のしかかる雅の体が重く、蹴飛ばそうにも足のあいだに入り込まれている体勢ではそううまくはいかない。相手の目を潰そうと指に力を入れた瞬間、乳首を甘噛みされて腰が浮いた。雅の腹に明の股間がぶつかった。勃起した性器が衣服とこすれた。
「あッ、あ、」
あふれる先走りで礼服の前がすっかり汚れており、ボタンもいくつかとんでいた。明の手がまたシャツを引っ張ったため、さらに一つ取れかけている。雅は気にしない。息継ぎをほとんどせずに、先ほどから乳を吸っている。
吸いついた口で小刻みに乳首を吸い上げると、あたたかい母乳が口のなかに流れ込んでくる。鼻へ抜けるにおいと、独特の口あたりが雅のまぶたを自然と落とさせた。舌で突起を押しつぶすようにすると、かすれたうめき声が頭上からする。ほぼ泣き声に近い。雅の喉仏が上下に動いた。喉をすべり落ちていく液体を感じながら、もう新しい乳を口に含んでいる。
明の目に透明な膜が張った。赤らんだ目もとを上から山羊の眼が見下ろしていた。乳首を牙がかすり、男のスラックスの前の膨らみが尻のあいだに押しつけられた。
「やめろぉっ…」
唇を離さないまま、雅の手が汗ばんだ背に回され、明の腰が持ち上げられた。
身をよじり、逃れようとするも、両脇に斧神の腕が回されているのでうまく上半身を動かせなかった。灯りよりも高い位置にある被り物の鼻から上が暗がりと同化しかけていた。明の手がさまようようにして友の腕に触れた。その口が開いた。
右の乳首が空気にさらされたのを感じると同時に、尻に熱いものが触れた。
「やだあぁっ…う…」
硬さを増した雄の先端が、催促するように尻の穴をこすった。何度も同じ方向に向かって、穴のひだを広げるようにして先走りが塗りつけられた。その感触に背筋がびりびりするほど感じていた。解放された右乳首がひどく痺れて痛かった。雅の口から唾液が滴り、明の肌に落ちた。滴る唾液に乳白色が混ざっている。重たげなまぶたの下から、ほとんど黒に近くなった眼球で明を見つめていた。
「苦しめられたようだな」
明に乱された前髪が額に落ちた。
「…」
白い指の腹が丁寧な手つきで明の胸の輪郭をなぞった。右の乳首だけがかたく尖り、三人が見ている前で、ふたたびじわりと先端に母乳をにじませた。明の唇が震えた。
「つらかろう」
斧神が主人から明の顔へと視線を移した。明が片手の甲を目に押し当てていた。声もなく涙が頬を流れ落ちていた。
胸が張って、痛くて痛くて、じんじんと痺れてたまらなくて、自分で搾っても捨てても間に合わなくて、なんとかしてほしいのひと言が誰にも言えなかった。そんなことは、言えやしなかった。死んでも言いたくない。だから、誰にもわからなかった。口に出して言わなければ、望んだことは誰にも伝わらない。伝わらないはずだった。
「ゔうー……」
肩を震わせている明の前髪を白い手がかき上げた。指の隙間を通っていく黒髪は湿っている。雅の手のひらの温度がひたいから直接肌の下へ染み込んでいく感じがした。互いの体臭が混ざりはじめていた。
「左は、そこの男にやってもらえ」
左に、右に、明が首を振った。雅が笑った。ひきつったように息を吸い込む明の口を上からふさいだ。よく湿っている。
母乳が母親自身の血液からつくられることを知っているのは、それを口にする男たちだけであった。明は知らなかった。知ったのは途中からだった。
男が運び込まれた翌日からは雨が降り続いた。
最高指導者のもとへ届けられていた人間は必要がなくなり、右腕の屋敷での滞留日数が増えた。興味津々のうわさ話があちこちでされた。あのお方の気まぐれは、誰にとってもいつものことよ。気になるのは隣の武人だ。持ち場に戻る予定を先延ばしにするような男ではなかった。
屋敷じゅうが知っていた。鍵のかかった牢につながれている存在を、聞こえてくる声を。交互に響くうなり声と嬌声。知った上で、誰もが見ないふりをしている。足音がすれば口をつぐんだ。みんな己の首が飛ぶのが怖い。
明の帰りを待つ者たちは、数日遅れで彼の不在の理由を知った。
「…やっ…ぁっ、あっ…」
巨体が全身を揺するようにして腰を動かすたびに、明の口からよだれがこぼれた。垂れ落ちた唾液が体の下の畳を汚した。唾液だけではなかった。数日間による行為で、すでに使いものにならなくなってきている。
強引に閉じさせられた腿のあいだを使って、男性器が前後に突き入れられた。巨大なそれがやわらかい腿の内側をえぐるようにして侵入し、先端の尖った部分が執拗に明の同じ箇所にこすりつけられた。明がのけぞった。逃げかけた体を、斧神が捕まえる。
重量のある腰が濡れた音を立てて太ももにぶつかった。
「ひうっ!」
もう一度。さらに一度。
「やめ、やめろっ、あ、あっ、あぁっ」
獣のような息づかいが座敷牢の壁に反響した。
正面からのしかかり、男は囲い込むようにして明を犯した。そうされると、明からはほとんど何も見えなくなる。男しか見えず、男のにおいと息づかいで、自分のすべてがいっぱいになる。
斧神が腰の動きを激しくした。明の口から嬌声とも悲鳴ともつかない叫びが出た。ひとかたまりになって、小刻みに淫らな水音を立てた。
「あッ、あっ、あっ…」
快感で視界が霞みがかっていた。終わりなく与えられる強すぎる性的快感が、体の力を奪っていく。雄に求められ続けることが精神をおかしくしていく。
男が不意に動きを止めた。
明の胸から、また母乳があふれている。
「斧神……」
縦に割れた口から唾液がつうっと垂れ落ちた。単眼が胸の突起を凝視していた。明の汗ばんだ体から匂い立つ体臭が斧神の頭を痺れさせていた。分身たちの呼吸が男の荒い息に重なり、巨体からはわずかに湯気が立っていた。
熱い息が明の頬にかかる。
吸われすぎて赤くぽってりと腫れた乳首から、乳白色がひとしずく、静かに肌を伝った。
「…駄目だ…駄目…」
うわごとのような明の声は届いていなかった。
唾液の溜まった裂け目が明の胸にしゃぶりつき、きつく乳を吸い上げた。明が泣き出した。乳を吸いながら、斧神が腰を使い始めた。ほぼ無意識だった。
「やらっ、やぁっあっ、やあぁっ」
ぶ厚い舌が胸全体を舐め上げ、不揃いな歯が乳首を絶妙な力で噛む。母乳がどんどんあふれてくる。
たまらなかった。
互いに理性を奪われかけていた。
明は自分でも気づかぬまま、親友に合わせて腰をすりつけていた。母乳と男の唾液が混ざり合い、獣の律動に揺すられ、下も上も熱くて、汗も涙も唾液もおんなじだった。男の脚で固定された腿はどろどろだった。好きなように突かれる性器が達し続けて、かたちを保てていないような感じがした。快感で気が変になりそうだった。
ひときわ強く吸い上げられ、明が胸を突き出した。いやらしい動きで腰を揺さぶった。
「…っあぁ、あっ…おのがみ、おのがみ…っ」
男の腕の力が増した。きつく抱かれ、乳を吸われながら達していた。少し遅れて、斧神の精が大量に腿の内側からあふれた。どろりと股間を浸す精子に、自然と明の口が開いていた。
下腹が甘く痺れて、火傷したように内腿が熱かった。
人間の血液など、二体の獣にはもう必要がなかった。血液よりももっといいものを見つけてしまった。代わる代わる訪れる男たちによって、明の体にはにおいが染みついた。二度ととれないような濃いにおいが明の鼻を四六時中きかなくさせた。体のどこにも、二体どちらかの唾液が染み込んでいない場所はなかった。明の乳は止まらなかった。
どちらも限度というものを知らない男ではなかった。一方からの視点では悪でも、雅は生物のバランスを保つことを知っていた。決して根絶やしにはしない。全体を見て、釣り合いを大事にすることを知っている男だった。そういう男たちだった。
牢壁の端に追い詰め、昨晩の熱が残る体に挿入すると、明は一度奥を突かれただけで達してしまった。びくびくと腰を震わせて、雅の陰茎を熱い内側で締めつけた。頑なに拒絶を口にしているのに、明の肉はとろけて憎い男の性器全体に吸いついた。途切れることなく男二人のどちらかが訪れるせいで、少しの刺激で快感が得られやすくなっていた。
雅は、自分の頭がものを考えづらくなっていることに気づいた。
気づいても、目の前の男からは体を離せなかった。なんとしてもこの男に今回も種をつけてやろうということしか頭になかった。
「畜生がっ…、死ね…あ、あ、あっ、あぁっ……」
人間の男一人に、張りついて離れられなくなっている。それが異常だった。
屋敷の外で降り続ける雨が屋内の空気を湿っぽくしている。窓のない牢の中で生かされている明には外がわからない。明の手は何日も刀を握っていなかった。そんなことはこの島に来て以来、初めてのことだった。湯と手拭いを使い、体を清めているあいだも、自分の手ではうまくできなかった。指に力が入らなかった。胸の周辺を避けて拭いた。斧神がその様子を格子越しに見ていた。
「……」
自分の体を見下ろす明の唇が震えた。いつのまにか手が止まっていて、胸の突起が硬く膨れていた。周囲にはひと気がなかった。
明の思考は絡まって、出口を見失っていた。何を意識しているのかわからなかった。息を吸って吐くまでの間隔が、緊張からいつもよりも長くなった。友の視線が痛いほどだった。
乳首からにじみ出した乳が、明を泣きそうな、怒り出す寸前のような表情にさせる。
子がいないのなら、この乳には行き場など必要がない。行き場がなければ、止まるかもしれなかったのに。止まったかもしれないのに。
「…!」
母乳があふれて腹を伝い、腰まで下ろした仮の衣服に染み込んだ。着物の裾を持ち上げるよりも早く、斧神が錠を開けて入ってきた。
「嫌、やだ、斧神、斧神!」
明の叫びは上に届いたはずだった。外にも聞こえたはずだった。雨の音にも遮られずに声はよく通った。それでも、時間が経っても誰もこなかった。
狭い牢の中には隠れる場所がない。
被り物が外され、裂け目の中で唾液が糸を引いた。腰巻に包まれた男の股間が欲情で膨らんでいた。巨大な手が明の足首をつかみ、自分の方へと引きずり寄せた。泣きじゃくる親友の姿から目を離さずに、興奮する雄を着物の隙間に差し込ませた。
斧神の体には、もう何日も人間の血が入っていなかった。欲しくもならなかった。他のことへの関心や、自制心が薄れかけていることはどこか気づいていたが、それらはすべて今考えるべきことではないような気がした。今最も重要な対象が目の前のそれであるような気がしていた。
肉と肉がこすれあい、いやらしくまぐわっている音と気配とにおいが空間を外界から遮断する。明が斧神の頭部をかき抱き、腰を上下に揺すった。いやらしい腰つきで、尻の穴をたまに斧神の先端にすりつけて、快楽にとけた表情で友を呼んだ。もう一人に犯され尽くした穴が、奥を突いてもらいたがって恋しがっていた。
ここで組み敷いている男こそが、自分たちの理想の象徴なのだ。きっと、これが自分たちの欲した未来なのだ。
斧神の舌が明の口に入り込み、裂け目が貪るように明の唾液を吸った。唾液が泡立つほど舌を絡ませあうと、キスをしているのか、母乳を吸っているのかが、男にはわからなくなってきた。顔じゅうを唾液で濡らし、明の喉が男の唾を幾度か飲み下した。
「あふ……」
汗と体液で全身が濡れて体温が上昇していた。甘くとろけた口で、明が斧神を呼んでいた。腰を緩やかに揺らして、向かい合った斧神にしか気づけないほどの小さな声で男の名前を呼んでいた。骨張った硬い手のひらが明の背を抱いた。もう友だちでもなんでもない。
光一つ射さない暗い冷凍室では雨が屋根を打つ音は聞こえなかった。雨が降る日にも似たふるいにおいがしたが、それは実際に雨が降る日のにおいとは決定的に異なる、不快なよそよそしいにおいだった。厚い金属を通して、永劫にも感じられる闇のなかで、線になって降る雨を想像した。窓の外で降りしきる雨。つめたい金属の上で横たわり、男は目を閉じ続けた。開けても閉じていても暗闇であるのなら、まぶたを開ける労力がいらない分、閉じている方がだいぶましだった。凍えた体を温めるものは何も与えられなかったので、体を動かすことをやめた。男は自分の声も忘れた。世界から忘れられるのには慣れていた。
雅が階段を下りているあいだも、雨が屋根の瓦を打つ音がしていた。このような場所まで音は届かないはずだった。空耳かもしれない。
牢内で眠る明の目もとにはくまができており、雅の指が頬を這っても目を覚まさなかった。疲れきった顔をしていた。触れた肌は湿っていて、乾いた指に吸いつくようにやわらかく、そこらじゅうに性と部下のにおいが充満していた。数時間前のことだろうが、よほど濃く交わったのだろう。雅は目を細めた。
屋敷内の静寂が夜の気配を強めている。
畳に膝をついた。畳を替える必要があった。この数日間の悪夢をあらわすひどい有様だったが、雅は構わなかった。もうその必要はない。包まるようにして着ている着物の裾を割り、白い手が明の股間のあたりをまさぐった。探り出した尻の穴に、ゆっくりと人差し指を埋めた。明が身じろぎした。徐々に指の関節を曲げていくと、その眉がぎゅっとしかめられる。
内側は入れた指が溶けそうに熱かった。明の体は雅の指を歓迎していた。侵入者が誰かをわかっていて、吸いついているようだった。眠っているにもかかわらず、雅は今、強烈に明の目を見つめたい衝動に襲われた。目の前の男に強い何かを感じた。雅自身はそれをそうだとはわからず、とにかく男が起きていればよかったと思うだけだったが、それも一瞬の感情だった。名前をもらえなかった感情は通り過ぎていった。
眠り続ける男を抱きかかえ、牢を出た雅は自室に戻った。誰ともすれ違わなかった。雨の音がよく聞こえた。子どもの寝息が耳に心地よかった。生まれた時から感じていた慢性的な不足感を、ここ数日ずっと忘れ続けていたことに雅は気づいていない。
時刻は深夜だった。どうにも言葉にならないものを胸に、いとしい男の全部を味わいはじめた。
自分のことを褒めてもらいたくて、やりきったと思える何かを相手に見せても、喜んでもらえることはごく稀だった。そもそも好意的に捉えられること自体が少なかった。明の頑張りは求められる形にはどうしてもなりきれずに、兄という型から弾かれ、画板の上にはみ出した余計な粘土みたいに誰からの期待に応えることもなく放置された。一生懸命書き上げた作文コンクールの佳作は勉強机の引き出しの奥で年月とともにぐしゃぐしゃになり、図工の時間に作った貯金箱は本人も気づかないまま燃えないゴミの日にごみ収集車に運ばれていった。明は兄が作り出した型が心底羨ましかった。同じくらい、兄の作り出した型を恨めしく思ってもいた。兄が褒めてくれる時は嬉しく誇らしい気持ちになるのに、体の半分が足りないものがあると主張している。成長するにつれて、明にはそれがなんなのかわからなくなっていった。
どれほど兄弟が愛を注いでも、父母の愛情の代わりになるものはない。明は大事なものをもらい忘れたまま育ったが、年齢を重ねるごとにそういった状況には慣れた。慣れて忘れてしまうのが人間という生きものだった。それでも明の半分はずっともらい損ねたミルクを求めて空のグラスを手に持って待っていた。どこにも行けずに、おそらく二度と来ない順番を待ち続けている。
「……っあ、あ…ひ…」
まず、自分の声が一番に耳に入ってきて、明は目をしばたたかせた。畳の上ではなく布団の上にいることに、一瞬、自分が帰ってきたのかと勘違いをする。薄暗い室内と背中のシーツの感触に、仲間たちのもとに帰ってきている、夜中に起こしてはいけないと、口を閉じようとした。
「ふぁっ、あッ」
びくん、と膝が跳ねた。体が揺さぶられ、乱暴なまでの快感が下から腹にかけてを貫いた。明の視界は点滅し、奥まで入った男性器をきつく締めつけた。あまりの気持ちよさに腰が浮き、熱くとろけた内壁がひくついた。雅の見ている前で、明は起き抜けに一度達した。
雅は少し突いただけだった。その少しが、今の明にはかわいそうなほど強すぎる刺激だった。寝ぼけながら、体内の陰茎に感じてほとんど色のついてない精液をこぼしていた。男の性器に吸いつく内側が悦びに収縮した。いやらしい光景だった。
雅の口角が上がっていた。
「…っ…ぁ、…?」
眠気の残るまぶたが持ち上がり、涙目が体の上にいる影を捉えようとしていた。男が身をかがめた。口づけが明の気づきの紐を解かせまいとし、舌が温度の高い口内をかき回した。これをすると、明の肉壁は陰茎全体に小刻みに吸いつく。達した名残でまだわずかになかが痙攣している。
男の舌が明の舌をすくい上げ、押し潰すようにして責める。
雅が腰を前後に動かし出した。結合部から粘膜がこすれる音がした。
「んっン…ンっ……」
大きく開かれた両脚のあいだで、男が獣のリズムで腰を動かす。亀頭がうごめく肉をこすりあげ、熱をこめて奥の方を犯した。明の腰が逃げようと浮いたが、そうはさせまいと男が同じだけ追いかける。
性交時の律動が床を軋ませていた。広い空間のそこだけが熱気に包まれて、白っぽく見える。シーツが歪み、男の動きと一緒に裸のつま先が揺れた。キスが止まらなかった。赤く煌めく瞳がまばたきを忘れていた。
そばに灯された明かりが明の目に入り、一秒後には完全にその意識を覚醒させた。
互いの肉体が隙間なく合わさった。
充血した男性器が、誰にも触れさせたことのない奥深くまで入り込んだ。やわらかい肉に先端がきつくキスをした。明の口が叫びのかたちに変わった。雅が口を解放してやると、断続的に嬌声をこぼしていた。
「ぁっあっ…ぁっ」
両脚が雅の腰に巻きついた。挿入されたまま背を仰け反らせた。奥のくぼみから抜けかけた陰茎が気持ちのいいところをこすって、唾液のかたまりが口からこぼれた。
「あひ、ぁあっ……」
自分の上にいる白い影が誰なのかを、明はもう理解していた。襲いくる快感に体のコントロールがきかなかった。体内で脈打つ陰茎が恋しくて、欲しくて、抜かないでほしがっているのを体は正直に訴えていた。濡れそぼった穴がすでに雅の陰茎のかたちになっていた。
雅の手が明の頭に触れた。髪のあいだに差し込まれた手が明の頭を、赤子にするような手つきで撫でた。笑顔も、言葉もなかった。
明の視界が涙で見えなくなる。
「…ッ…まえが…」
頭を撫でる手はつめたかった。人間のものとは異なる体温だが、それでも、一人と一体で繋がっている。熱が存在する。たしかに。ここに。
「なんで…っ…おまえなんだ……」
欠けた半分が泣きじゃくってこれが答えだと教えている。
涙が際限なくあふれては明の顔を濡らした。
「なんでっ…」
雅の口が明の胸の突起を含んだ。ひきつったように肩を震わせて泣く明のわき腹を撫で、じっくりと乳を吸った。甘く、まろやかな液体が雅の口内を満たす。乳首が硬く尖っていき、片方の胸からも母乳があふれて肌を伝う。
このまま眠りにつけたらどんなに心安らかに夜を過ごせるだろう。
声が雅の名前を呼んでいる。いつかこうして呼ばれることを、この声を、あの冷凍室の闇で耳にすることができたのなら、あるいは何かが変わっていただろうか?
「みやびっ…っぁ、あッ、ひん…っ、ひっ…」
突き上げる動きに合わせ、息つぎの合間に明の口から甘くかすれた声がもれ、その声を聞くために雅の動きが徐々に荒くなってきていた。二人の動きがまったく同じになり、雅の腰に巻きつけられた明の両脚が交差していた。陰茎が大きさを増し、裏筋が明の粘膜を執拗にこすった。
明の声が雅の視野を狭める。声変わりをとうにすませたはずの声が、とろけきって濡れていた。その声で仇敵を呼んだ。全身で恋しがっているのと同じことだった。どんな女にも感じたことのない強い欲望が雅の思考を働きにくくさせた。目の前の男のことしか頭になかった。
「んぁ、ッぁ、あぅっ、あんっんっ…」
奥のくぼみにふたたび亀頭がはまり込んだ。ねっとりと先端の割れ目で明の奥を味わい、先走り汁を塗り込めるようにしてなすりつけた。明の体がびくびくと震えた。その状態のまま、雅は今まで以上の激しさで男を犯した。
心臓の音がきこえる。
雨の音もする。
明の腕が雅の肩を抱き寄せた。汗をかいているのがどちらの腕なのかがわからない。最奥まで陰茎が届くと、目の前のこと以外の全部が頭から消失した。口づけを交わし、夢中でまぐわっていれば、際限なく快感で脳がとける。
体の上にいるのは人ではなかった。男は獣だった頃に戻っていた。四つ脚の下で、明は突き上げてくる硬い陰茎を切なく締めつけた。動物の雌に成り果てていた。
奥に熱いものが放たれた瞬間、射精なしに絶頂を迎えていた。
「あぁああっ……」
背が弓なりに反り、大量の精子が体内に注がれているあいだも、明の全身は小さく痙攣し続けた。勢いよく注がれる男の精液に強烈な快感を覚えていた。雅が短い間隔で腰を揺すると、明が声を出した。言葉らしい言葉になっていなかった。結合部から淫猥な音が立ち、精と体液が隙間からわずかにあふれた。
空のグラスを取り上げたのは人の手ではなかった。しかし、その色のない手が、うつむいて泣きじゃくる幼い明の頭を見つけた。わがままも言わずに待っていた明のほこりをかぶったむなしいグラス。
胸がたまらなく痛い。
雅の吐く息が燃えるように熱い。
明の唇に息がかかる。
「…好い子だ」
白い肩に明が顔を埋めた。雅の抱く力が強く、次から次へと涙があふれ出て、止まらなかった。
雨の勢いは変わらない。瓦を打つ音は、変わらず雅の耳を楽しませる。
雨にまぎれて、その人を取り戻すために人間軍が近くまでやってきていた。ほとんどの者が気づいていなかったが、斧神が目を覚ましていた。左腕も寝床からのっそりと起き出してきた。雨で屋敷を囲む山々が霞み、景色全体がぼんやりと霧に包まれている。
あぐらをかいた雅の足もとで、明が体を丸めていた。黒髪を湿らせていた汗が乾いていて、触ると塩でぱりぱりした。裸の体に雅の上着が掛けられ、穏やかな寝息と一緒に胸が動いていた。とても深い眠りについていた。
雅が立ち上がった。
「すぐ戻る」
深い声が落ちた。見下ろす目に前とは違う色が混ざっていた。
白髪のあいだから明を黙って見つめていた。
雅が燭台の火を消した。部屋が薄闇に包まれた。部屋を出た。日の出が近い。
終
2018.12.23