燃ゆるぬかるみ

※ドーム戦敗北ルート、雅明前提の姑明。

 切り落とされた頭部の半分はもう元には戻らないので、責任を取ってもらわなければならないのだった。

「…ココダ…ココニ…明…」

 膝の上に抱いた男に姑獲鳥が指し示したのは、顔の左半分、赤身が露出したグロテスクな切断面だった。
 緊張に背筋を硬くさせ、明は男の腿に腰掛けている。腰掛けさせられている。良く躾けられた犬のように。薄着で、やわらかい尻の感触が男の脚にしっかりと伝わっていた。男の手がその腰回りを撫でた。
 明は、張り詰めた表情でいる。

「オマエノ…クチビル、ガ…ホシイ…」

 明の喉が、ぐび、と唾を飲み込んだ。
 姑獲鳥は命令をしていない。そのままの要望を、ただ伝えている。どうするべきか、明がわかっていることを知っているから、敢えて命令せず、そのようにしている。そうした方が気分がよいから。従わざるを得ない男を見るのが、好きだからだ。
 明はシャツ一枚だった。下着も身につけさせてもらえない。
 汗ばんだ脚を持ち上げて、男の腿を跨ぐ。すうすうする裸の股間が、男の肌にぴたりと吸いつくようにくっつく。陰茎、陰嚢、尻の割れ目、太ももの内側が、無防備に姑獲鳥の肌の上に乗っている、その事実に頭部の羽根が震えるほど愉悦を覚える。
 興奮に男の息づかいが少しだけ荒くなったことに、明が気づいて、よけいにその体が硬くなる。

「…ハヤク…」

 玉座に座る男の異様な風体。醜い。誰も近寄らない。恐ろしくて、おぞましい。二目と見られぬ顔。だれがこうしたか。だれがこれをやったか。
 明が慎重な動きで、さらに身を寄せて男に密着する。男の羽根がサラサラと震えて鳴った。喜んでいる。
 明の眉が寄せられ、けわしい顔になる。

 どのようにしたら、痛めつけられないか、体にきつく教え込まれた。暴れないよう、逆らわないよう、押さえつけられ、なぶられ、しかしそう早いうちにきっと、あの男の御前に引きずり出されるのだと思っていた。
 姑獲鳥はじっと明を見つめる。切断された頭部の赤黒い肉からのぞく眼球が、見えているのかどうかもわからないひどい丸みが、明を待っている。
 明は巨大な体躯にゆっくり身体を押しつけて、男が示すそこに、強張った唇を触れさせる。
 いつまで経っても、この男は、自分をどこかにやろうとはしない。いつまででも手元に置いて、離さない。
 父親のもとへ連れて行かれるのだと計算していた明の予測は、はずれたまま。
 接吻はひかえめで、やわらかく、血の味などはしなかった。傷は乾いて、肉はグニグニと弾力のある感触で、けれど痛みは変わらずそこにある。明が振り下ろした刀が作り出した、暴力の痕がそこにある。

「明……」

 明がぎゅっと目を瞑った。くちばしから漏れ出る吐息に、まぎれもない欲情の気配がある。

 部屋の隅に黒が溜まる薄暗い玉座の間で、椅子に腰掛ける男に跨がって、密着したところを擦り合わせていたら、いやでも二人きりでしている行為を意識させられた。
 姑獲鳥の動きが小刻みになるから、敏感な部分を細かく突かれて、どんどん明の下が濡れてくる。きゅうくつな姿勢で犯され、喘ぎが抑えきれずにもれ出る。

「嫌、っだ…ッ…嫌っ…」

 ものすごく小さい声で、抗議している。揺さぶられながら、切れ切れの声で訴えている。姑獲鳥は聞こえないふりをしている。聞いているが、その声の変質の仕方を確かめている。
 奥をねっとり、大きすぎる陰茎で甘くこねまわすと、明の「嫌」が、泣き声に変わりかける。それがたまらなく姑獲鳥の性器を硬くする。
 巨躯が傾けられ、明とのつながりが深くなる。ごつごつした両手が腰をつかんで押しこめる。

「あ、あ、嫌、嫌っ…姑獲鳥、あ、」

 泣きそうな顔で、明が逃げようと腰を引こうとした。姑獲鳥の舌が無惨なくちばしの隙間からこぼれ出て、先端が開いた明の口にもぐり込む。

「ぐ、…っぅ…んっ、んー」

 目の前の男のすべてを征服したい。呼吸、排泄、射精、男の生理、すべてを支配し、この手で取り扱ってやりたい。許してやるつもりでいた。大事にしてやるつもりだった。削がれた顔など。
 しかし姑獲鳥は思い違いをしている。明の体はまっさらなようでいて、触れられていない場所はなかった。すべてに一人の男の手が入っている、耕された豊かな土壌がある。寂しがり屋の人恋しい、甘くもつれた体の、奥まで染みついた男の精液の残り香が、まわりの男をおかしくさせる。
 犯されていない穴などないのだった。

「……ッあ、あっ!ハァッ…!嫌だ、いやだぁ…ッ」
「逃ゲルナ、アゥ、オオ…マダ、入ル…入ルッ…」
「アアっ、や、ぁっ嫌、いれんなッ…!」
「オッ、オッ…」

 強い力で揺さぶられると、男の腕の中から嬌声が上がる。たちゅっ、たちゅっ、と淫らな音が結合部から立ち、快感ににじむ体液が際限なく明の股をつたい落ちてくる。充血した怒張が肉壺を暴き立てるのを明の力では抑えられない。犯されるのを止めることができない。

「あ、あ、んっ、んっ、ん…」

 明の眼球を覆っていた涙が、つぶになってぽたりと落ちた。目もとが染まり、顔面を走る傷跡のふちまで赤みを持っていた。受け流しきれない快感が涙となって体の外に出てきてしまう。
 一度でたらおさまらなかった。

「あぁあ…っ…」

 以前も、こうして犯された奥に、痛みと快楽を与えたあの男は、今どこにいるというのだろう。お前といい、どうしてお前たちは、俺の体をここまで熱心に求めるのだろう。
 おかげでこんな、男に好き勝手されて、たまらなくなる体ができてしまった。

「姑獲鳥、っ姑獲鳥、やめろ、やめ…っ、いく、いくから…ッあ、あっ」
「イイゾ、イケ…ダセ…オオ、イイ…ッ」
「っは、あ、あっ、駄目、いくっ、そこ、駄目、ダメッ…」

 汗ばんだ腰をくねらせ、明が前屈みになる。向かい合う姑獲鳥の羽に顔を埋め、半開きに喘ぐ口から唾液が垂れ落ちた。そのだらしない口もとを長い舌がすくい取る。

「んんーっ……」

 姑獲鳥の律動は交尾中の雄の動きだった。跨がった明は自分が上にいると思えなかった。下から生殖器を使って打たれていて、上からは舌が熱を込めて口内を貪る。
 ピストンの勢いで穴のふちに体液が溜まって、じゅぶじゅぶと泡立っているのをはっきり音で聞く。なかがとろけて、下腹が切なく焦がれて、犯されているのか、愛しあっているのかが、なんだかわからない。
 硬く勃起した陰茎が、気持ちのいいところにもぐり込んで、執拗に明をなぶる。
 
「っあ、いく、いく、いく…っ」

 明が漏らすように叫んだ。響きだけで男根を硬くさせる声だった。
 のけ反った明の下半身に、姑獲鳥がひときわ強く股間を押しつけた。亀頭が奥のくぼみにははまり込み、短い間隔で濡れそぼるそこを突き上げた。

「あ、あっ…あっ…」

 びく、びくん、と明が小さく体を震わせた。
 姑獲鳥の息づかいが激しくなる。甘痒く躾けられたそこに、小刻みに男の乱暴が振るわれた。

 姑獲鳥の陰茎から勢いよく飛び出た精子が、奥いっぱいに注がれる。

「オ、ウ…オ、オッ…」
「ん、…っあぁあ……」

 濃い精液を注ぎつつ、姑獲鳥が腰をへこつかせ、擦りつける。
 達した明のなかを、卑猥に陰茎が掻く。しつこく。精子と愛液を混ぜる。

「あ、あ…ふ…」

 感じている明を凝視しながら、姑獲鳥の性器は、ふたたび硬くなり始めている。
 この可愛い男は、いきものは、自身のものであると言い切りたい、逃げ切りたい。孕ませられるものなら孕ませてしまいたい。
 しこたま子種を植えつけて、精液を塗りつけて、ほかの雄がもう二度と近寄ってこれないよう、体臭ごと作り変えてしまおうと姑獲鳥は思う。穴という穴を犯してやろうと。

 息を切らす明の頭は快感でいっぱいで、思考がぼやけて、霞みがかってどうにもならない。達して敏感になった場所に、まだ入っている男の陰茎が、ぬるぬるして、到底、抜き難い。気持ちのいい場所に当たると、もう、駄目になってしまう。

「んッ……ッ…」

 男の陰茎が侵入して、ひらいてしまった。閉じていたはずの快楽の穴がひらいて、散々教え込まれたそれが起き出してきてしまった。
 抜かなければ。

「姑獲鳥…」

 明の目が姑獲鳥を見つめる。
 抜けてもぽっかり開く穴は。

「ッ…抜いて、くれ…」

 姑獲鳥の息も荒い。

 男の硬い性器を締めつける、この穴は。

2024.7.21
父親の玩具に執する息子。