「嫌だ、嫌だ今は、頼む」
わめく口から今度は悲鳴が出た。縦に裂けた巨大な割れ目が一気に俺の性器を口内に飲み込んだ。男の頭部を両手でつかんだ。手のひらがぬるぬるした。男の汗か体液か、分身たちの唾液か、わからない。
全身から汗が噴き出た。
男の口が俺のへその下から股間までを完全に覆った。力が抜けそうになる脚を太い腕に抱かれ、喘いだ。
温かい舌が陰茎をすくった。
「斧神!」
陰茎全体をきつく吸われて声にならない叫びを上げた。大きな舌が全体を舐めては、柔らかく先端をくすぐる。非常にゆっくりとした動きで口の中が動く。
濡れた音が室内に響いた。
首を振ろうにも、耳鳴りがするほど肉体が混乱している。
「勘弁してくれ…!」
また強く吸われ、上体が折れた。男の頭部を両手で抱きしめ、震える腰を押しつけた。たくましい腕がくずおれそうになる脚を裏側から抱き、より一層口内の動きをいやらしくした。うめき声が嬌声に変わった。
唾液をたっぷりと含まされた陰茎が、男の口の中であっという間に硬くなって、男の口蓋をこする。
男が口を離した。
自分の顔が真っ赤に染まっているのがわかる。
「小便だったか」
腕を振り上げた。振り下ろした拳が相手の片手に捕まった。
斧神は笑っている。
「お前なんか…く、くたばっちまえ…っ」
頭部の中心の目が細められ、その口襞が俺の性器に軽く触れた。不気味な笑い声が分身たちの口からあふれる。
充血した性器の先に物欲しげに先走りがにじんだ。
男の視線がそこに集中し、羞恥心が体温を上昇させる。
斧神の喉が鳴った。
「次は、俺が連れて行こう」
よだれが垂れた。
口が開いた状態で閉まらない。
陰毛までが他人の口に覆われ、男の唾液でべっとりと濡れているのがわかる。激しくされたら、声が抑えられなかった。前と、後ろから、同時に責められ、嬌声をごまかすこともとっくに難しかった。
兄の長い指が後ろの穴を遅い動きで掻き回し、前からは性器を弄ばれる。快感にどちらかから逃げようとすればどちらかに捕まる。
細長い指が入り口付近のしこりを撫でこすり、思わずのけ反った。背後で膝をついた兄の肩に手をつくと、前にいる男が角度を変えて俺の陰茎をしゃぶった。
「あ、あ、ぁ」
射精させられたばかりの性器には、あまりにもつらかった。甘く濡れた声で名前を呼んだ。どちらの名前をどれだけ呼んだかが、もうわからない。
気が狂えれば一番楽だった。何もかも与えられた薬の所為だと。そう思えたら全部楽になるのだろうか。何が自分の正気を保たせているのだろうか。血の繋がった兄と、親友と呼んだ男に、すがりついて快感を得ている自分は、まだ狂っていないと言えるのか。
複数の指が尻の穴をほぐしていく感覚は、夜を重ねるごとにどんどん別のものへと変化していく。自分の身体が、知らなかったものを知り、欲しがるはずのなかったものを恋しがって、兄の指を締めつけている。
体重を支えきれず、兄の肩に指を食い込ませた。
汗が顎を伝い、斧神の体に一滴落ちた。
「そろそろいいか?」
兄の声がした。興奮に低くかすれていた。
斧神が口から俺の性器を離した。その動きに背筋がぶるりと震える。
「俺は、構わん。いつでも」
ずっと舐められていた性器が空気に触れて、奇妙な感じがした。膝の力が抜け、かくんと体が畳に沈む。倒れる前に二人の男に抱きとめられる。
身体のどこでも、触られただけで、下肢がうずくほど、全身が敏感になっている。
息荒く、胎児のように丸まろうとした。無意識に刺激から身体を守ろうとする。すると、腕が腹に回され、斧神に引きずり寄せられた。
「なに、すんの」
舌が回らず、手でぺたぺたと男のわき腹を触った。斧神が構わず俺の体を自分の体の上に引き上げた。腹ばいの姿勢で、巨漢の上に乗るような格好になる。
頭が回らない。
「変なこと…」
言いかけた言葉は続きを失った。背後からの気配に振り向こうとした。兄の方が早かった。
散々弄ばれた尻の穴に、熱いものが触れた。
逃げようとした体にすかさず斧神の腕が回され、反動で腰が上がった。そこへ、のしかかってきた兄の陰茎が後ろから挿入される。
声が出た。
兄が体重をかけ、ぐっと腰を押し進めた。頭頂部までを痺れが襲った。硬い陰茎がさらに奥をひらく。
「っあ、やぁ、あ」
指だけでは足りなかったと言わんばかりに、入ってくる兄の陰茎に、掻き分けられる自分の肉がうごめき、まとわりつくのがわかる。下にいる斧神の胸に額をこすりつけ、逃れようと腰を揺すった。追いかけるようにして、その尻を兄が腰で叩いた。湿った奥に一気に先端がぶつかる。
「ひあっ、あッ」
頭の中で火花が散った。
突き抜けるような快感に、たまらずなかの雄を締めつけた。陰茎が脈打ち、肉が溶けそうに熱い。兄が息を吐いた。
斧神の手が、ゆったりとした動きで背中を這う。
温かい手のひらが俺の背中にかいた汗を伸ばす。
「弟は、どんどん、上手になる」
「もともと、覚えが早い」
「…こんなところまで上達が早いと、もう外には出せない」
「当然だ」
そんなことは、雅様が許さんだろう。
すぐ頭の上で交わされる会話の内容が、頭に残らず耳を通り抜けていく。身体を貫く雄のことしか考えられず、満たされたいと強く望む肉欲が、猛毒のように全身に広がっていく。
こんなものは自分の意思ではない。こんな肉体は、欲望は、俺自身の感情とは、まるで関係がない。
目をぎゅっとつむった。どうしても思考にもやがかかってしまう。立ち止まって考えたいのに。考えさせてほしいのに。
閉じたまぶたを触られた。そろそろと開けると、斧神が面白そうにこちらを眺めていた。
「何を考えている?」
口を開きかけた。相手の眼球を見つめ、男と自分の体格差によって心臓の位置が離れていることに気づき、そのことで無性に胸が締めつけられるような心地がした。喉が詰まった。
斧神が首を傾けた。
男の胸に置いた手を握りしめる。
いっそのこと、子どもみたいに声をあげて、泣きわめいてしまいたい。
「どうだ、うちの弟は」
兄の言葉が上から降ってくる。
抜かれかけた陰茎が、一息に奥を突いた。口から漏れ出たのは隠しようもない官能だった。
揺さぶられる動きに合わせて、濡れた声が口からあふれる。入り口の感じやすい場所を執拗にこすられたら、頭が真っ白になった。粘膜にじかに触れられ、とろけた肉を突かれる、それだけの単純な動きが思考の積み木を壊す。自分が何であるかが、忘れられてしまう。
「なんて顔だ」
親友の声がする。
兄の性器からにじむ体液が、体内に染みついていくのを感じる。
揺さぶられる腰に、ごつごつとした手が回った。熱い手のひらをしている。尻のラインをなぞる無骨な指先に、兄をくわえた場所が切なく締まった。兄のかすかな笑い声が聞こえた。
「たまらないのか」
斧神が囁く。激しく突かれながら、うなずいた。頰が熱い。兄が獣の動きで腰を振る度に、淫らな水音が結合部から立ち、腰の裏側が小刻みに震えた。兄の陰茎に、自分の内側が甘く吸いつく。強く突かれるごとに、奥からいやらしく濡れていく。
自分の体が、全身で男を求めている。
もう何も考えたくない。
「斧神っ…」
男の体と自分の体が汗で擦れ、視界は滲んだ。兄に揺すられつつ、男の上で喘いだ。
「…っあ、あぁー…っ」
とろけた頭で、硬く勃起した自身の陰茎を男の股間にこすりつける。先走り汁で濡れた先端を浅ましく押しつけ、呼び名を呼んだ。相手の興奮を感じていた。
腰をつかむ大きすぎる手に力が入った。相手の欲情が、痛いほど伝わってくる。
斧神が笑った。縦に割れた口から、低い笑い声がこぼれ出した。兄もおそらく笑みを浮かべている。
「可愛いやつよ」
男が取り出した巨大な陰茎が、腹の下にくっついて、その熱さに火傷しそうになる。斧神の大きな手が、俺の陰茎と、自身の陰茎を、二本まとめて握った。敏感な部分が触れて、感触の生々しさに背筋が痺れた。
気を戻させるように、兄が動きを再開した。
親友の体にしがみつく。
「はあっ、はぁあ」
甘くなりようしかない濡れた声が兄を呼んだ。無意識のうちに、幼い頃の呼び方で兄を呼んでいる。
行灯の明かりで襖にできた三体の影が動きを止めず、ひとかたまりの大きな影となって、動物的な律動を繰り返した。重なった姿は、性行為というよりも、交尾に近い。
口内にあふれた唾液が開いた口からこぼれた。
岩のような手が、普段の相手からは信じられないほどの淫らな動きをし、後ろから貫かれる度に、男の手の中で二つの性器がこすれあって音を立てた。親指の腹で柔らかい先端を擦られ、泣き声をあげて男を呼んだ。
「すごいな。あふれてくる」
「やめて、やら、ぁっ、あ」
「もっとしてやってくれ」
「やだっ、おのがみ、それ、んうう」
言葉と体が反対の動きをする。腰をくねらせ、男の手に陰茎を押しつける。兄の性器が最奥まで入り込み、雁首が欲しがる肉の壁を容赦なくえぐった。
そこに向け、兄が幾度も陰茎をピストンさせた。
「あっ、あっ、あっ」
全身の回路がおかしくなりそうな快感に思考が追いつかない。涙を流して全身を震わせる。
「んううー…っ」
痙攣した。
兄に突かれながら、別の男の手の中で達する。斧神の手がしごく手を止めないことで、どちらの快感を強く感じ、射精したのかもわからなかった。白い精が親友の腹に飛び散った。揺さぶられるリズムに合わせて、精が飛び出す。
涙が止まらない。
斧神の胸にすがりつき、射精の快感に、体内の兄をきつく締めつけた。兄の腰が押しつけられ、肌と肌、結合部が隙間なくくっついた。下腹部がきゅうきゅうと甘く痺れた。
「くうっ…」
兄のうめき声がした。斧神が手を速め、俺は濡れた頬を男の胸にこすりつけた。親友のわき腹に手を回した。
自分には届かないであろう、体の一番奥に、兄の先端がきつく触れた。
どんな形でも、いつも自分を後戻りさせなくする。
勢いのある熱いものが奥にぶつかった。それに遅れて、自分の陰茎とこすれあう巨大な陰茎が脈打ち、腹の下に多量の精を吐き出した。
「はぁぁ…っ」
奥の奥まで一滴残さず注がれる精に、もう、何も考えられなかった。腹の底が火傷しそうに熱い。斧神の精液に、自分の陰茎までがどろどろに濡れ、くっついた場所から、男の匂いが染み込んでいく。
兄の手が腰のくぼみに触れるのを感じた。名残惜しげに、指先が肌をなぞった。
体じゅうに染みついたこの匂いは、どれだけ洗ってもとれない。
斧神の腕が弛緩しきった体に回される。