【Web再録】成熟(四)

「……ッ、カ…ぁ…!」
 はじめに、息が止まった。
 圧倒的な質量とひどい圧迫感で、まさに言葉通り、内臓が押し上げられるのを感じた。
 あまりの太さと大きさに、入り口がみちみちと限界以上に拡がっていく。
 痛みよりも、焼き切らんばかりの熱さを覚えた。火傷しそうなその熱に、それが痛みからくるものなのか、侵入者自身の熱なのか、判別できない。
 本能的に体が上へと逃げた。それも許されなかった。
 ものすごい力で押さえ込まれ、体の下へと引き戻される。
「…ァ…ぃ……ッ」
 腰が押し進められ、膣内をこすりながら、その膨張した熱はゆっくり奥へと向かった。体が外側へ向かって圧迫される。
 全身が声なき悲鳴をあげていた。
 こじ開けられる骨が軋み、道を開けろと押しのけられた臓器が位置を変える。
 信じられない広さに拡がっていく膣口を頭の隅で認めるも、どうすることもできない。巨大な蛇の頭が、肉を掻き分け、身をくねらせ、膣内を進んでいくかのようだった。
 入ってはいけないところまで、侵入されようとしている。
「…っひ……ぅ…」
 やがて、気の遠くなるような時間を経て、陰茎の先端が突き当たりに到達した。そこが突き当たりだと自分にもわかった。
 ずっと黙っていた男が、頭上で満足げなため息をつく。
「…これが…」
 陰茎が少し手前へと引かれる。目がチカチカした。臓器が肉に巻き込まれ、引きずられる。
 脈打つ雄の鼓動を感じる。
「お前の処女か…」
 せり上がってくる感覚に、たまらず横を向いた。
 けぱ、と口から粘り気のある胃液があふれた。量は少なく、押し出されたといった感じの吐き方だった。
 一度、二度、喉が震えて、白く光る床を汚した。
「…っぅ…う…」
 汚れた口や頬をごつい手に拭われる。頭がガンガンした。
 俺は口で息をする。鼻がつまり、涙と汗で顔全体がヒリヒリした。そのあまりの異物感に何度も唾を飲んだ。口の中が気持ちが悪い。
 見下ろすと、同じ器官とは思えない大きさの陰茎が、自分の体にしっかりとおさまっている。結合部までは見えないが、男の腰がぴったりとくっついていて、これまた信じ難いことに、ほぼ根元まで入れられている。
 泣きべそをかいてはいけないとわかっていても、嗚咽はこらえきれなかった。
 一気に、都合のいい夢から引きずり出されたような気分だった。
「私の女だ…。誰にも…」
 ずるっ、と陰茎が膣内を進み、じっと息をひそめていた子宮口を突いた。
 脳天まで衝撃が走った。
「ひッ……!!」
 大きく引きつった体が男の両腕に捕まる。
 亀頭が強くくぼみへと吸いつく。そこを男が小刻みに突き上げる。
 目の前で、白いものが弾けた。
「あっ…あっ…ぁあ…」
 姑獲鳥が長い吐息をもらした。
 自分の萎えた陰茎から、普段よく見る黄色い液体が流れ出していた。体がビクビクと震え、膣の痙攣がおさまらない。
 収縮する肉に、まだ男の雄がきつく口づけている。
 感じたことのない強烈な快感に、口の端からよだれをこぼしていた。それを横から長い舌が舐めとる。
 陰茎の形が、怖いくらいにはっきりとわかった。
「ほかの男に、奪わせはせんぞ…」
「ン……ぁっ……」
「俺のものだ…俺の…」
 長い舌が首筋を這う。耳の中まで入り込む舌に、繋がった部分がきゅうっと締まる。
 本当は知っていた。
 雌としてのさがは、目の前の男が自分の男だととうに認識している。この男の性器を欲しがって、ずっと濡れていた。それに聞こえないふりをしてきた。
「宮本明…」
 弱った喉で、口中に溜まった唾液を、ごく、と飲み込む。
「お前の処女が、どういう風に奪われたか…よく覚えておくがいい…」

 なかに出されたものが空気を含み、陰茎が出し入れされるたびにひどい音を立てている。腹がいっぱいで、内臓が隅々まで濡れている感じがする。
 男は後ろから犯すのをやめ、一旦抜くと、最初のように正面から挿入した。巨大な陰茎を、膣はたやすく迎え入れ、貪欲に絡みつく。
「ッ…っぁ、あァ…ッ…」
 とろとろになった肉壺に、グロテスクな姿をした雄が埋まっていく。
 すでに身体には拒絶感も、異物を押し返そうとする感覚もなかった。とてつもなく大きなものが体の中にあり、それが動くと、頭の芯が燃えるように熱くなる。
 男がなかに出した精液が、陰茎が侵入する深さに比例して隙間からあふれ出てくる。一度出した後だというのに、男の興奮はおさまらない。
 揺さぶられるリズムにつられ、こぼれる嬌声と一緒に男の名前を呼んだ。なぜ呼んでしまうのかもわからず、口から勝手に出てしまう。
 男は俺を正面から抱きたがった。
「ああ、もっと私を…呼べ、呼べ、明」
「っあ、ぁ、く、あッ…! やぁあっ…」
「おお…締まるッ…」
 へその下まで入ってきた陰茎に、電気が走ったように腹の奥が痺れる。鈴口が最奥のくぼみに押しつけられるのがわかった。
「やだっ、もっ…嫌だ…っ!」
「何を、言うか、まだ足りん、ここは」
「ぁひっ…ッ…」
 亀頭がぐりぐりと深いところをこね回すのに、よだれをこぼして腰を震わせる。男の怒張に肉ひだが甘く吸いつく。
 姑獲鳥のくちばしは開きっぱなしで、そこからまぎれもない血のにおいがしていた。
 さらに体重をかけてきた男の体で、両脚がこれ以上ないほど開いた。短い間隔で、子宮口に激しく亀頭がぶつかり出す。
「ぁあッ…それ…っ嫌ら…嫌ッ…」
「いいぞ、すぐそこだ、絶対に…孕ませてやる…っ…」
「やら、やめろッ、あっ、あァッ……」
「ぐお、オオっ…」
 覆いかぶさる男の腰が一層荒く振りたくられ、室内に自分の悲鳴が響き渡った。泣き声混じりの情けない悲鳴に、男の喘ぎがかぶさる。
 そんな俺とは反対に、膣壁はますます淫らに陰茎にしゃぶりついた。泡立つ結合部が卑猥なひくつきで、ひっきりなしに雄を誘う。
 男の一度目の射精がたまらなく気に入った子宮は、しつこく精子をねだり続ける。
「やらあぁ…ッ…!」
 激しく突き立てられる雄に、思考が端から快感に溶かされ、形を保てなくなる。
 気づけば伸ばした左手で、男の目元に爪を立てていた。力なんてほとんど入らなかった。羽の生えてない部分の、爬虫類の背中にも似た硬い手触りが、湿った指にも冷たかった。
 その目がこちらを向いた。黒い瞳が、油膜のようなぬめった光に覆われている。獣の眼。
 同じだった。
 闘技場で対峙した時と、寸分違わない同じ光が、そこに宿っている。
 向けられているのは強い渇きであり、支配欲であり、苛烈とも言える劣情だった。あの時、その場で戦う相手にしかわからない激しい欲望を向けられ、内心困惑し、刀を振るった。死と隣り合わせの状況が、生殖本能を刺激し、殺しの興奮がすりかえられているのだと思った。
 あれは思い違いではなかった。
 抵抗むなしく、甘く濡れた膣奥を陰茎が突き上げ、愛液が飛び散る。
「あッ、あっ、ぁっあ、あ」
 男の勢いに、子宮口は迫る亀頭に吸いついては離され、くぽくぽと物欲しげに収縮した。
 うわごとのように、駄目と、嫌を繰り返した。姑獲鳥の腕の力が増し、ピストン運動が速くなる。
 とろけた膣を責め立てる陰茎は、確実に子宮を狙っている。
「嫌、らッ…精子、いれるなあぁっ…!」
 その直後、開ききった子宮口に、膨らんだ先端が猛然とぶつかった。
 体内で、猛る雄がぶるりとその身を大きく震わせた。
「…ッグ…」
「ぁあっ…あ……っ…」
 うめく男の腰が痙攣し、結合部が隙間なく合わさる。一度目の射精よりも、ずっと深い場所に入られていた。
 噴出した熱い液体が、膣から子宮内までを一斉に満たしていく。
「っぁ…あ、ぁふ……」
 屈服した器官には、あまりにも堪え難い刺激だった。火傷しそうな熱を持ち、まっさらな部屋へ精子が次から次へと侵入してくるのを、本能で感じる。
 己を降した、自分よりも強い雄の子種を。
 どく、どぷっ、と大量の熱い精液が子宮内に注がれていく。なかに出される感覚に膣内が痙攣し続けていた。
 自分が達していることに気がつかないまま、男に舌を奪われる。
「…ッ…うっ…」
 キスをされているのだと悟った時には、もはや手遅れだった。
 くちばしの隙間から飛び出した長い舌が、淫猥な動きでこちらの舌をすくい上げ、音を立てる。くちゅくちゅと唾液をかき混ぜる舌先に、男をくわえたところがせつなくうずく。
 姑獲鳥の腰はまだ、緩やかに動き続けていた。
 涙がこぼれて、口の中に入る。
 精液でいっぱいにされた体の奥が、熱くて、汚ならしくて、じんじんする。舌がとけてしまう。このまま眠ってしまいたいほど気持ちがいい。
 絡み合う舌が止まらない。
 子宮を犯されながら、口内を舐めまわされ、肉ひだは陰茎を小刻みに締めつけた。収縮する膣内に、姑獲鳥は一滴も残さず注ぐと言わんばかりに腰をすりつけては、そのいびつな口づけを繰り返した。

 どこからか、ぼそぼそと話し声がしていた。聞き取りづらい不明瞭な声で、人の声というよりも、羽虫が集まりその羽音で形成されているような音だった。
 姑獲鳥が頭をもたげた。
 舌が離れ、下あごと俺の唇とのあいだで糸を引いた。細長い舌が口から出ていく時に、ちゅぽ、と音がした。
 吸いついていた舌が消えて、物足りなさを感じる。
 持って行き場のない指先で、べたついた唇に触った。胸が上下し、喉がスースーする。口や喉の筋肉が麻痺した感じで、唾が飲み込めない。
 姑獲鳥は耳をすませていた。スピーカーから声がしているのだった。
「…戻られています…」
 発される声にノイズが混じった。ざざ、と音が途切れる。
「……戻られました…そちらへ…」
 ほてった頭をずらすと、下に耳がついた。湿った頬に無機質な床の感触を感じた。
 声が繰り返した。スピーカーの調子が悪いのか、言葉が断片的にしか届かない。
「お前の男が戻ってきたぞ」
 姑獲鳥がつぶやき、こちらを見下ろした。熱い眼球を通して、男が思考を巡らせているのが伝わってくる。
 頭がふわふわする。
 口の中で、自分の舌が勝手にもぞもぞと動いては、下の歯列をなぞる。不足感を感じている。
 男を見上げた。
 どうして、舌を抜いてしまうのか。
「…その顔を、あの男に見せてやろう」
「…ぅ、…」
 姑獲鳥が身を起こし、動いた拍子に、繋がったままのそこがこすれる。白い胸元にしがみついた。握った羽は湿っている。
 腹が重たい。
 また口に舌が入ってきた。閉じかけていた歯をこじ開け、細長い巨大な舌が口内にずるりと侵入する。
 催促するように、それがこちらの舌をつついた。
 なにも考えないまま、粘液に覆われた舌の先端を頬張った。男の唾液の味と、すえた臭いが鼻をつく。とうに慣れたにおいだった。
 くちばしの向こうで、黒い瞳がじっとこちらを見下ろしている。その目を遠くに、くわえた舌を吸った。
「…っふ…」
 どこか懐かしく、心地よい感覚が全身を包んだ。
 舌は弾力があり、あたたかい。
 吸っていると、だんだんとまた体が熱くなってくるのがわかる。割れ目の奥、陰茎が入ったままの、そのずっと上の方が、じゅんと濡れて、物欲しげにうずく。
 子宮を満たす精液が揺れ、白く波打つイメージが脳裏をよぎる。
 ごわごわした羽を握り、首をさらに上へと伸ばした。自分の喉が鳴った。
 その男が部屋に入ってきたことを知ったのは、くちばしの上の黒い眼がわずかに横へと動いたからだった。視線はすぐにこちらへと戻されたが、目の前の男のまとう空気が変わったのは隠せていなかった。
 白くもやのかかった頭で、同じ方向へと目を向けた。
 閉まった扉の内側に、男が立っている。
「う…ッ」
 喉奥まで入った舌に、びくん、と体がはねた。舌の付け根を押さえつけられ、瞬間的に強い嘔吐感が襲ってきた。
 喉が引きつり、心臓が一度大きく鳴った。
 息が止まった。
 白い照明の下で、山羊の頭部の毛皮が黒光りしている。両手には何も持っていない。朝に会った時と変わらないように見えて、視線を下へと落とすと、足が汚れている。
 血と泥でまだらになった裸足の足が、潔癖な床に黒い跡を残している。
 感情の読みとれない眼がこちらを見ていた。距離を超えて親友の目に映った自分の姿が見えた。見えるはずがないものが、その瞬間、はっきりと己の目に焼きついた。男に組み敷かれた自分を。
 一番、見られたくなかった姿を。
「ッゥウ……!!」
 両腕が持ち上がり、目の前のくちばしをつかんでいた。右手がないことが頭から抜け落ちていた。しかし残っているのは左手だけであり、そちらの手で懸命に男を引き剥がそうとした。
 姑獲鳥は離れない。
 頭に血がのぼった。拳で男の目を狙った。その手が素早く捕らえられる。
 信じられないことに、体内の陰茎が、ふたたび硬さを取り戻してきている。
「……! う、ううーッ…!」
 激しい勢いで首を振った。ずるりと舌が抜け出た。
 目だけを動かし、目の前の男と友を忙しなく交互に見る。動揺のあまり、言葉を失っていた。体から飛び出しそうなくらいに心臓が暴れている。
 まぶしいライトを背に、姑獲鳥が笑った。
 目を見開いた。
 なんということだ。
 こいつ。
 こいつは。
「や…めろ…、ッ!」
 その直後、背中を駆け上った感覚に、大きく仰け反った。
 口が開いた。
「ッ…ァ……」
 ほとんどやわらかくなっていた自身の陰茎の先から、精の残りがあふれ出た。
 きゅう、と膣が締まる。
 奥を軽く叩かれた程度だったが、今の自分の身体には強すぎる責めだった。すでに膣内が、姑獲鳥の性器の形に馴染んでいる。
 頬に視線を感じた。
 いろいろな体液にまみれた裸の身体が、明かりの下にさらされている。殺し合わなければならない相手と快楽を貪り、その証拠が隅々まで残った身体は、どこにも隠せない。隠しようがない。
 今ほど強く、その罪を意識したことはない。
 にじむ視界で、友の姿を見た。見られている。
「見るな、俺を…」
 姑獲鳥が動きはじめ、体が上下に揺れる。床の上を汗に濡れた体が滑り、性行為特有の律動がはじまった。
 膣に充血した陰茎が出入りし、その度にひどい音が立つ。
 割れ目に男の股間がぶつかると、たまらなかった。声が抑えきれなかった。
 こすられ続けた膣肉は快感を感じやすくなっている。
「見んなっ…っないで…ぁ、あッ…」
 肉がぶつかる音が部屋に響く。濡れそぼった女性器を、陰茎が執拗にこすりあげていく。頭がそれでいっぱいになる。
 目を逸らしたいのに、被り物から目が離せない。友はただじっと、部屋の入り口で立ち止まっている。
 視界が揺れ、交わる男の息づかいが近くから鼓膜に注がれる。
「ぁうっ、ン、んっ…」
 浅いぷつぷつしたところに亀頭がすりつき、尖った部分が何度も天井を擦った。甘ったるい泣き声がこぼれ、唾液が唇の端からたれた。
 指の腹でそこをこすられるのが、好きだった。すべて知られているのだ。陰茎で責められたら、ひとたまりもない。
 悦びになかが浅ましく濡れては、きつく雄を絞る。
 二人分の視線に、顔が熱い。
「たのむ…みるな、っ……」
 山羊の面は逸らされない。
 姑獲鳥の動きが速くなり、息づかいがさらに荒くなった。ひとかたまりの動物になり、互いの呼吸のリズムが揃いはじめる。
 快感が全身を支配し、つま先から指の先まで犯されているような気になった。自分がうめいているのか、嗚咽しているのか、わからない。
 床に押さえつけられた左手に、男の手のひらが重なっている。
 思わず親友の名前を口にした、その直後、出された精液を溜め込んだ膣奥に、怒張が容赦なく突き刺さった。
「ひうぅっ…!」
 憎しみをはらんだ黒い眼が、刃物のような光を放った。歪められた目から、男の激情が伝わった。
 姑獲鳥の歯が細かく鳴っていた。
 とどめ難いほどの怒りが、そこにあった。
「私の子を、産ませるぞ、必ず」
 男が非常に小さな声で囁く。
「ほかの男の、子どもなど」
 男の体から湯気が立っている。汗のにおいと、生臭い吐息が混ざり、鼻をつく。
気づけば、自分の唇が震えていた。
 くちばしのあいだから紡がれるかすれた声が、ぞっとするほど冷たい。
「殺してやる…」
 どっしりとした腰が強い勢いで打ちつけられ、子宮口を深く突き上げた。衝撃に膣が痙攣した。
 渾身の力で、左手が繋がれた男の手を握りしめた。両脚が男の脚に巻きつき、腰が浮いた。
「あ…あ……」
 びく、びくん、と密着した互いの下半身が引きつったように震えた。
 汚れきった膣内を、熱いものがどろどろに満たしていく。二度目よりも少ない量であるにもかかわらず、噴出される精液に勢いがある。
 得体の知れない、説明のつかない感覚が、結合部を中心に体じゅうに広がるのを感じていた。
 孕ませられる恐怖よりも、多幸感の方が上回る。覚えたての種付けされる快感に、雌の性も有する生き物としての本能が、注がれた貴重な遺伝子に反応していた。その精子の、持ち主にも。
 吐精の勢いが弱まり、最後に鈴口が名残惜しそうに奥を愛撫すると、せつない痺れが波のように下腹を襲った。
「んぅぅ……」
 だらしなく達する顔が、混血種たちに凝視されている。どうすることもできず、痛いほどの視線に、とろけた膣は収縮し、貪欲に雄をしゃぶる。
 「初めて」の名残など、もうどこにもなかった。
すっかり男の味を覚えてしまった女性器が、愛おしげに陰茎に吸いついて、離れない。

 三度目の精を吐き尽くすと、姑獲鳥の喉のあたりから低い音が鳴った。
「…北にいると聞いた」
 しがみついていた俺の手をゆっくりと引き離し、姑獲鳥が腰を引いた。巨大なそれがずるりと奥から出ていく。下腹を揺らしたにぶい痺れに、熱っぽい吐息がこぼれた。
 抜ける際、ぐぽ、と音がした。
「なぜ、貴様がここにいる」
 浅く息を吸っては吐き出す、自分の胸が上下するのを見つめる。開いた両脚が固まって、閉じられない。長時間巨体に乗られて、関節がまともに動かなくなっている。
 限界まで拡げられた膣が、元の形に戻ってくれない。
 床に片膝をついた姑獲鳥の手が、太ももの内側に添えられた。その手の感触にさえ、背中がぞわぞわする。
「雅様が望まれたことだ」
 斧神の声は抑揚がなかった。
「私の兄弟が現れるはずだったが」
「気が変わられたようだな」
 姑獲鳥の頭部の羽が、かすかにさらさらと鳴った。
 空調装置の唸りで、部屋の静けさが強調されている。
 天井の照明が輝いていて、部屋全体を照らすそれが、今ではどこか消灯を待ち遠しく感じているように見えた。混血種二体の無言が、この部屋を監視する画面の向こう側にまで伝わっているだろうことを知っていた。スピーカーはとっくに沈黙を守っている。
「そうか」
 姑獲鳥が立ち上がった。
 その手が一度握られ、開かれるのを下から見た。岩のようなごつごつとした手のところどころに、付着した体液がまだ光っているのが見える。
「姑獲鳥…」
 名前を呼んだつもりが、声は出ていなかった。起き上がろうとした体が傾き、床に倒れる。
 目を瞬いた。
 上体を起こすための、腰を支えるわずかな力さえ残っていない。下半身がまるで使いものにならない。軟体動物のようだ。
 山羊の鼻が俺へと向いた。
 姑獲鳥は斧神を見ている。
「用は済んだか」
「…何?」
「貴様の用は済んだのか」
 斧神の言葉の真意をはかるように、姑獲鳥はしばらく黙って兜の面を見つめていた。山羊の眼は感情を伝えず、静かに答えを待っている。
 俺の体のすぐ横で、姑獲鳥の足が小さく位置を変えた。頭を動かさず、目だけで俺の顔を見て、すぐに斧神に視線を戻す。
「退けと」
 姑獲鳥が言った。尋ねる調子ではなかった。非常に低い声色で、くちばしをほとんど動かさずに言葉を口にした。
 手が勝手に、みぞおちのあたりを押さえていた。
 深く息を吸おうとして、緊張にこわばった自分の肺の下手くそな動きに、ぎゅっと目を瞑る。
 部屋が静寂に包まれる。
「俺は旧友に会いに来た」
 開いた目に、親友の遠慮のない視線がぶつかった。両手を脇にたらし、兜の眼ははっきりとこちらを見据えている。
 斧神は部屋の雰囲気を気にしていないようだった。たとえ注意を払っていたとしても、そうとは見えなかった。
 無菌室のような部屋も、天井の明るすぎる照明も、殺気を放ちはじめた同輩も、男にとっては通り過ぎる風景の一部であるかのようだった。一点に向けられた関心に姑獲鳥も気づいた。
 斧神は俺を見ていた。
「そこの男と約束もしていた。用が済んだなら、譲れ」
 その時だった。
 ぞわぞわと背中を這い上がってきた感覚に、反射的に肩が縮こまった。腰が浮き、目が下を向いた。
 俺の動きに斧神も気づいた。
「…貴様のものではない」
 姑獲鳥が言った。おさえた声に、感情がにじみ出ている。
 扉の前から離れ、斧神が部屋の奥へと近づいてきた。足を踏み出す度に、大きな体躯がわずかに左右に振れる。
「この男の髪の毛一本すら、我々のものであったことなどない」
 とっさに左手を股間にやった。しとどに濡れた穴に、指先が当たる。
 陰唇が開ききって、敏感になった内壁がすぐに触れる位置にあった。
「貴様も俺も、許されているだけだ」
 視界が影に覆われ、はっと顔を上げた。
 目の前に立った親友は兜を外そうとしていた。両手で被り物を持ち上げる動きに、考えるよりも早く名前を呼んでいた。
「斧神、」
 斧神は手を止めなかった。
 わかるはずがないのに、監視モニターの向こうで息をのむ気配を感じとった気がした。
 隣に立つ姑獲鳥は微動だにせず、その素顔を見つめていた。
「その事実を忘れてはならない。お前も、俺も」
 ぞわあ、と腕に鳥肌が立った。左手がすかさず膣口を押さえる。それでも、片手では間に合わなかった。
 姑獲鳥も気づいた。
 こらえきれずに、体をきつく丸める。
「っン…」
 小さな震えが訪れた後、膣からあふれ出てきた精液が、あっというまに左手をいっぱいにした。
 それは、初めて味わう感覚だった。
 生温かく、粘っこい精液が、穴から流れ落ちてくる。手のひらにおさまりきらずに、いくらかは指の隙間から滴り落ちて床を汚した。何もない床に、自分がもらした白みがかった体液が点々と水たまりを作る。
 その光景に、顔じゅうがかっと熱くなった。
「…ッ…、や…っ」
 なおも膣をおりてくる体液に、ぶるりと体が震えた。
 慌てて、排尿時の尿を切る要領で出口を締めようとしたが、どうにもうまくいかない。
 泣き出したい気持ちになった。
 肉欲におぼれた証拠を、目の前に突きつけられている。
 自分の、罪を。
「明」
 駄目だと思っていても、顔が歪む。
 どうして、まともではいられないのだろう。
 普通の男になりたかった。なれるものなら、誰もが認める男として、最初から人生を生きてみたい。
「明」
 俺だって、許されるなら、普通の恋愛がしたかった。特別なことは何一つ、望んでいなかったのに。
 どうしてそれが絶対に叶わないのだ。
「…うぅー…」
 名前を呼ぶ声は静かだった。深い声色が鼓膜にやわらかかった。
 頬に添えられた大きな手が、親指と人差し指で耳をくすぐった。その手をはねのけることもできない。
 体の前で、斧神が床に膝をついていた。その横に姑獲鳥が立っていた。
 色彩がぼやけ、世界がにじむ。
 この二体の吸血鬼を、殺し損ねたのは、俺の方だ。確実に、首を飛ばさねばならなかったのだ。
 はらはらとまた涙を落としはじめた俺に、醜く崩れた顔の中心で、一つ目がひっそりと細められた。
「もう泣くな」
 親友は穏やかに言った。
 さあ、その精液を吸い出してやろう。