※斧明Rー15くらいです。性的描写にご注意ください。
キスで勝負をつけないと出られない部屋に閉じ込められてしまった明と斧神! こんなことは初めてのことなので、二人はどうしたらいいのか皆目見当がつかない!
「ふざけるな!」
ダンッ!
明は荒々しく両の拳を床に叩きつけたが、もう何をやってもこの部屋からは出られないことは隣の大男の腕力によって証明済みである。男の拳で穴一つ開けられない壁には、さすがの斧神もことの気味の悪さに口をつぐんだ。ちなみにここまででエクスクラメーションマークを四つも使っている。もう精も根も尽き果てた。
部屋の中央で大の字になった明の横で、斧神は至って冷静である。
「勝敗はどういう見方で決まるのだろう」
「負けた方がと書いてあるだろ」
「だから、その勝ち負けをどうやって決めるのか」
明がむくりと上体を起こした。斧神の視線に、眉をひそめている。
口と口を合わせるだけのことに、勝ち負けなんぞあるものか。しかし、それは、認めにくいことではあるが、自分が経験の少ない男であるから知らずにそう思っているだけで。ほんとうは、キスにも勝ち負けがあるんだろうか。俺が知らないだけで。みんなには当たり前のことなのか?
しばらく二人で黙り込んだ。山羊の頭も何も喋らなかった。
キスの勝敗。
明は途方に暮れた。
「どう…」
「…」
「どうやって……?」
斧神は黙したまま、意味もなく兜の位置を直した。
こうやって見上げられ続けるから、篤は弟から離れられなくなってしまったに違いない。こんなふうに教えを請われれば悪い気を起こすこともあるのかもしれない。可能性としての話だ。
弟に変な気を起こす兄の気持ちは、露ほどもわからんが。分かりたくもない。
視線を逸らさない親友の物言わぬ圧力に、明の顔が、だんだんと赤くなってくる。
勝ち負けなんかどうでもいいのかもしれない。
「決めずにここで俺と死ぬか」
「?!」
立ち上がった明の隣で、山羊は肩を揺らして笑っている。
斧神も可能性に引っかかってみせることにする。
二人の体格差はかなりのものだったが、斧神は上手に年下の男を扱ったつもりだった。どこまで力を入れれば相手が痛がるのか、壊れるのか、どんな加減で触れたらいいのか。この体になってからもうずいぶんと経つ。わかっているつもりだった。それでものしかかられると、明はどうしたらいいのかわからなくなった。どんな立場でいたらいいのか。変な気分になる。
分厚く巨大な舌が明の顎の下、柔らかい皮膚をすくうように舐める。熱い息と唾液にまみれ、唇と裂け目のような口が触れ合うたびに、もどかしいような、おあずけをされている犬のような、たまらない気持ちになった。行き場のない手が首筋に添えられた斧神の手をつかんだ。
「ま、まだか…?」
息継ぎの合間に明が口にした。そこからさらにたっぷり二分、斧神は明の口内を味わった。
明の舌が痺れてくる。
「…、……」
明が離れようと斧神の胸に手をやったが、ビクともしなかった。そもそも明の手にはろくに力が入っていなかった。腰が浮いて、斧神の腹に何度も擦りつけるようにして押しつけられていた。その硬さを斧神も知っていた。
ごつごつとした手が衣服の隙間から侵入し、明の肌を撫でていっても、明の頭は追いついていない。何をされているのか認識しないままに、口からあふれるほどの唾液を飲みくだす。
腰の動きが淫らになっている。
「……」
頬が熱く火照っていた。顔じゅうがベタベタして、かぶりつかれたら息ができなくなる。汗をかき始めていた。この何もない部屋に二人きりである事実が、急速にくっきりと影を持って現れたような気がした。
さっきからずっと、俺たち二人きりだ。
キスなんて綺麗な言葉で呼べるものではない。食われているに近い。斧神の頭の冷静が、食ってはまずいと言う。明の頭の冷静でない部分が、食われてもいいと言う。
「負けても、いいのか」
大きく縦に割れた口が囁いた。裂け目の奥で舌が動き、濡れた音をさせた。斧神の手が衣服の下に入り込み、明の腰をゆっくりと撫でた。口を開けた明は、舌が自分のものでないみたいだった。
「負けたら…」
節くれだった手が前に回り、下着越しに硬い膨らみに触れた。そのまま、そのあたりを太い指で何度もこする。明の脚が幾度も震えた。
頬が熱い。
斧神が明の腿を軽く持ち上げた。
「負けたら出られる…」
くっ、と斧神が笑った。
勝敗なんかどうだっていい。ここで一緒に死ねたら一番いい。
勝っても負けても、どのみち一歩出たら地獄である。
「では、勝たせてもらおうか」
斧神が明の唾液の味を覚えても、繋がった体は離れなかった。部屋が開いても、出られなかった。
2017.10.4
かけてください恋の呪文。