※箱根戦敗北ルート。二人の金剛と明で金明。性的描写にご注意ください。
下方からの呼び声に、大きい金剛は自分の足元へと目を向けた。「おおい」自分とそっくりな声がまたその耳に届いた。屋上に通じるドアが開いており、小さな金剛がそちらからのっしのっしと歩いてくる。
「ン? どこへやった」
己の分身のすぐ足元までたどり着いた小さい金剛はあたりを見回した。(小さい、といってももちろんこれは相対的な意味であり、混血種としての特徴、他の吸血鬼に比べてべらぼうに大きく屈強な体つきなんかはこちらの金剛にもきちんと備わっている。)気持ちのいい夜風が吹きつけてくる晩で、屋上から一望できる黒々とした箱根の景色を、彫り出した偽物の目玉に見えるかぎりの角度から確認した。それからふたたび巨大な分身を見上げた。だらしのない休めの姿勢で。
大きい金剛は仏頂面を崩さず、硬いコンクリートの上に直に座り込んでいた。先日の戦いでできた裂け目のそばで、縁が今にも崩れ落ちそうだった。人の手が入らずに日々老朽化していく建物ではあるが、寿命をずいぶんとはやめてしまったことが少しだけ残念に思われた。
本当に少しだけだった。
ひときわ目立つ星が、男たちの上でチカリと瞬いた。
天にも届こう金剛力士像の口角が上がり、小さな分身に向けて、大口を開けてみせた。だらしのない笑みをしまった男はそれを覗きこんだ。
濡れた歯の内側から勢いよく小人の頭が飛び出した。
「……ッハア、ハァッ、ハアッ…」
どろどろになった裸体を引きずって、熱い舌の上で身をよじり、明は金剛の下の前歯をつかんだ。手に力が入らず、ギリギリまで酸素の供給を止められていたせいで、ひどい眩暈がした。懸命に酸素を取り込もうと肺が痙攣していた。黒髪が肌にべったりとはりついて、肩に歯型がついていた。男の唾液を大量に口にしてしまっていた。口内に閉じ込められ、かなりの時間が経過していた。
熱く濡れた舌の上から、明は上体を外へと突き出した。目が霞んだ。腕が震えて体を支えきれなかった。
男の唾液にまみれた体が夜気に触れ、その唇から嗚咽にも似たうなり声がこぼれ出た。言葉になっていなかった。
「うらやましい味わい方だな」
小さな金剛は心底羨ましいといった表情で分身を見上げた。こんなふうに、この男を味わうことができるのは、俺の分身ぐらいのものだろう。
落っこちそうな小さな体を、巨人の手がゆっくりと口の中に戻した。必死に酸素を取り込みつつ、大きな声を出そうとしていた明が、泣き声をあげた。堅固な口が閉じた。
ぶ厚く熱い舌が明の体をしばらく弄んだ。右腕の切断面から、額の傷跡、口には出せないような敏感な場所まで、あめ玉を転がすように残さず舐め尽くした。ざらついた舌の先が何度も的確に下肢をこすった。こすられる度に悲鳴をあげるのに、その悲鳴には行き場がなかった。口を開けては、酸素のかわりに分泌された男の唾液を無限に飲んだ。酸い唾液の味が、体に染みついていくようだった。暑くて、暗くて、圧倒的に酸素が足りない。
地獄だった。酸素を欲しながら、執拗な愛撫に射精している。達する性器さえも、男は貪欲に味わった。
「ハ、ハァッ、ハッ、ハァッ、あっ、ゔっ、うゔぅ…」
数分後、ふたたび解放された時には、明は泣いていた。呼吸するのが困難で、泣くことさえうまくできずにいる様子で、舌の上で震える射精後の体をなんとか動かそうとしていた。
大きい金剛は口を開けたまま、鷹揚な笑みを浮かべた。満足感をにじませ、伸ばした指で、舌から落ちかけた愛おしい男の足をくすぐった。
その手を蹴り飛ばす力は、救世主には残っていない。
「けだものっ…ども…」
汗も、涙も、精液も、どれ一つとも味わい逃すわけにはいかなかった。最後にまだひとつ、楽しみが残っている。
あといく晩を過ごし、朝を迎えたら、あの方にまっすぐ届けよう。例の息子どもを、この男には触れさせん。この男だけは、新参者には触れさせない。
大きい金剛は名残惜しげに、口の中から男を取り出した。愛され尽くし、ぐったりとした明を、小さい金剛の両手が受け取った。重みがびくりと震えた。唾液でふやけ、やわらかくなった体が、わずかな刺激にも敏感になっていた。
特別な男だった。同胞のにおいが染みついた男に、どんな女に抱くよりも強い情欲を感じていた。
「俺の番だ。明よ」
思う存分、内側を犯してやるつもりだった。女であればいっそ孕ませてやりたかった。
2018.5.29
どこまで汚しても絶対に一番奥までは汚しきれない。そこが腹立たしくて、そこがいい。